ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第100回

ハクマン第100回
人と接する時は、
心では愚弄していても
表には出さない方が良い。

どう考えても、他人から恨みを買って良いことなど一つもない
ある日自分に恨みを持つ人間が、無敵の人となり、池の水全部抜く感覚で「恨みがある奴全部刺す」というマインドにならないとも限らないのだ。

別に優しくする必要はない「俺もお前と真剣に向き合っている風の顔」だけしてくれれば、頭の中は「水星の魔女、あの終わり方で二期春とか正気か?」とかでいい。

あと、今目の前にあるネームや原稿について意見するのは良いが「才能がない」や「どこに行っても通用しない」など、漠然とした作家の可能性や未来にまで言及するのは良くない。

前にも話したが、私も「これがダメならカレー沢さんは漫画家として終わりだよ」という、編集長と担当とのやりとりがCCで私本人に来てしまうという出来事があった。

その後本当に終わったかというと、未だに漫画の仕事はしているので終わってはいない。
だからといって始まってもおらず、後ろに誰も乗っていないソロキッズリターン状態という、未だにオチが何もついていない話なのだが、私が漫画界の残尿として残っているのも事実だ。

よって一人や二人に「終わりだ」と言われても当てにはならないのだが、そう言われて全く気にならない心強(ここつよ)もそんなにいないし、逆にそう言われてしまったせいで終わってしまう人間もいるかもしれないのだ。

編集者と作家というのは割と一期一会であり、異動や退職などですぐに縁が切れることも珍しくない。
その程度の間柄の人間が、相手に未来永劫消えない「呪い」をかけるような言葉を吐いて良いわけがない。

それに呪いをかけて良いのは呪われる覚悟がある者だけである。
実際私は、終わりと言われたことをいろんな場所で3万回ぐらい話しており、そのたびにちょっと件の編集たちに生霊を飛ばしているので「200年以内に一家全員死ぬ」などの災厄がそのうち起こると思う。

しかし、どれだけ気を付けても相手に恨みを買う「逆恨み」という現象もある。
そして作家には「想像力豊か」という共通点がある。

やはりそういうタイプを何人も相手にする編集者という仕事は大変なのだ。
たまにSNSでちょっと強めの自己主張をしていても、そこまで怒ることではないような気もする。
どうせ作家はそれをネタにもっとひどい編集の悪口を言うし、さらに強い自己主張をしてくるのである。

「ハクマン」第100回

(つづく)
次回更新予定日 2023-02-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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