ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第117回

「ハクマン」第117回
「作者体調不良のため休載」
を見かけることが多くなったが、
「休む」という判断は難しい。

だがこれは、今の漫画家が激務で体を壊しやすくなったというわけではなく「体を壊した漫画家が休むようになった」からではないかと思う。

当たり前のことを言うなと思うかもしれないが、少し前まで「風邪を引いたので休ませてください」「なんで?」という会話が繰り広げられていたのが我が国である。

「体調不良」と「休む」の間に入ろうとする「=」を百合の間に挟まろうとする男レベルで嫌う業界も多かったのだ。

つまり、漫画家が体を壊しても休まなければ「作者体調不良のため休載」という現象は起こらないということだ。
現在は本格的に描けなくなってから休むのではなく「休養が必要である」という段階でも休む、休ませるができるようになったのではないか、と思われる。

おそらく今のご時世「休みたい」と言って休ませない企業はほとんどないだろうし、そんな団体は少なくともXに晒される。

そうなると、大事になってくるのは「休む」という個人の判断である。

休ませてくれる環境であっても、自分で「このままじゃヤバいので休みたい」と判断&申告ができなければ無意味である。

むしろ異変に気付いた周囲から「大丈夫か?」と問われても「大丈夫!」と元気に答え、ある日突然来なくなったり「ダイジョウブダイジョウブウブブブブブブブ」と、口から寄生生物を出現させてフロアを全滅させたりと「自分が休めば周囲に迷惑をかける」という判断ミスでさらに迷惑をかけるケースも少なくない。

しかし、「休む」という判断が難しいというのも事実である。

「休む」と言った次の日に休めるぐらい層の厚い会社、または休んだところで全く影響を及ぼさない無戦力だったら良いのだが、休んでいる間誰がその仕事をやるのか、その引継ぎはどうするかなど「休むことを考えること自体が疲れる」場合、すでに疲れている心と体はその負荷に耐えられず「このまま仕事をしていた方が楽」という判断ミスを起こしがちなのである。

フリーランスの場合は、休んだ間、無収入になってしまうという経済的理由があるため、さらに判断が難しくなってしまうのだが、前兆の段階で休養しなかったことにより、本格的に体を壊して大損する、というのは会社員もフリーランスも同じである。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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◎編集者コラム◎ 『ロボット・イン・ザ・システム』デボラ・インストール 訳/松原葉子