ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第136回

「ハクマン」第136回SNSでの宣伝は
作家や担当編集の
やる気にかかっている。

先日、SNSで流す用の漫画データ一式を担当にもらったのだが、参考として「バズらせる投稿の仕方」の資料も送られてきたのだ。
確かにこちらにもバズらせたいという欲求はあるし、担当もやる気があるからそれを出してきているのだろう。

しかし、いくらモテたくても、母親に「あんたもこういう感じにしたらいいんじゃない?」とモテるLINE術記事を見せられて素直に受け取れる奴がどれぐらいいるだろう。
「うっせえババア」と吐き捨てて自室に籠城、その日の夕食をボイコットするように、送られてきたデータをゴミ箱に直送したくなったが、それをやっても困るのは自分である。

しかし、SNSの宣伝がバカにならない昨今、どうやって投稿すればバズりやすいかを研究し、その資料を公表してくれている人がいるのはありがたいことである。
だが、その資料を制作しているのが、まさに漫画家であり、実質「●●先生みたいに宣伝してください」になってしまっているのだ。

しかし、資料自体は非常に有益なものであり、ターゲットを想定して文言を考えたり、バズりやすい時間帯を狙ったり、構文を変えて複数回投稿してみたりと、試行錯誤の末の貴重なデータであることがわかる。

1回でバズることもあるが、バズらせるためにこれだけ努力している作家もいるのだ。

逆に言えば私は、朝昼晩、3いいねなどの不発にもめげず、同じ内容を構文だけ変えて何回も投稿する強さを持っていると見込まれて、この資料を渡されたとも言える。

そして、見込み通りやったかというと、1回しかやっていない。

編集などに対し、もっとやる気を出して欲しいと思っているが、こちらが期待を裏切るから相手もやる気を失うのかもしれない。

「ハクマン」第136回

(つづく)
次回更新予定日 2024-7-24

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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