ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第158回

「ハクマン」第158回
いま、我々に必要なのは
「休む度胸」である

ただ、私は誰かにこれを強要されていたわけではなく、自分で自分を殴っていたようなものであり、今やっとそれに気づいたという感じだ。

しかし、これは私に限ったことではなく、似たようなことをして気がつけば違う意味でお口がスースーしてしまっている人は多いのではないだろうか。

何故そうなってしまうのかというと、おそらく、休むことに「不安」を感じてしまうからだろう。

周囲から休むのは悪と言われたわけではなく、むしろ「布団を敷こう、な?」と熊先生よりも慈悲深い目で言われても横になれない人間がいる。

しかも、休むのが悪というのは間違いだが「不安」に関してはあながち間違いではないのが厄介なのだ。

学校でも、自分が休んでショート動画を無限に見ている間に、学校に行っている奴は何かを学び、人間関係と社会性を育み、童貞を喪失する奴もいる。

仕事に関しては疲弊するばかりで何も育まないが「賃金」という生きていくうえで重要なものが発生しており、休んでいる間はそれが得られないのだから不安になるのは当たり前なのだ。

つまり、不安なく休める社会保障が重要ということだが「どれだけ休んでも生活は保障されます」となったら、一生社会復帰しない奴が続出し、ライフラインが止まると思うので、塩梅が難しい。

ただ、学校や会社は、土日祝など、最初から決められた休んで良い日があるため、そこは不安なく休めるという人も多いだろう。

だが、フリーランスは補償も会社員以下だし、休んで良い日は実質ないため、ますます休むことが不安なのだ。

また、フリーランスは先のことがさっぱりわからない。

ゴリも「どうなってもいい」とは言いつつも、インターハイの日程は決まっていると思うので、この試合が終わったら休んでインターハイまでに故障を治せばいいと見通しを立てていたはずである。

片やフリーランスは、インターハイが明後日と言われることもあるし、逆にインターハイが中止になることも多いので「インターハイまで休んで大丈夫」とは思えないのだ。

つまり、我々に必要なのは「休む度胸」である。休んでしまったらダメになってしまうのではという不安を「休まない方がダメになる」という決意で休むのだ。

ただフリーランスは休んでダメになる率が高いため、その勇気がなかなか出ないのだ。

逆に言えば、学生や会社員の人はどんどん休んで欲しい、我々よりは余裕で戻ってこれる。

「ハクマン」第158回

(つづく)
次回更新予定日 2025-11-12

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『シナントロープ』涌井 学 原作/此元和津也 
◎編集者コラム◎ 『ワシントン・ブラック』エシ・エデュジアン 訳/高見 浩