ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第164回

「ハクマン」第164回
「こんなの病まないはずないだろバカ」

ならば、売れさえすれば病気知らずかというと、むしろ人気作家の方が多忙で死んでいる印象だし、注目されることによるプレッシャーもあるだろう。

売れたことがないので、これは推測にすぎないが、どうせなら人気作家も病んでてほしい。

言うまでもなく漫画家の病みはSNSの普及により加速しているという。

自分の評価がよりダイレクトに伝わってくるというのもあるが、売れている作家に対しても以前は「知らん国の知らん奴が売れているらしい」という感覚だったのが、SNSの普及により、知らない売れている奴が毎秒「売れました」と報告しにくるような感じになってしまった。

つまり、嫉妬深く、すぐ他人と自分を比較し劣等感にさいなまれ、ついでにSNS依存の奴は漫画家にはならない方がいいということだ。

逆にこれだけ条件が揃いながら「涙が止まらない」などの深刻な症状がまだ出ていない私はものすごく精神的にタフなのでは、と思えてきた。

しかし、漫画家がそんなに病みやすいとしたら、ジャソプとかも毎週半分の作家が急病で休載しているはずであり、それはオーバーだと思うかもしれない。

だがこれは「漫画家は病みやすい」一方で「漫画家に漫画以外の仕事をやらすともっと病む」という事実があるからではないかと思う。

実際私は16年ぐらい漫画家をやって、これといった病気になったことはないが、会社員は8か月やっただけで「自律神経失調症」という診断書をいただくことができた。

漫画家は客観的に見ると常に病んでいる、だが本人にとっては「それが一番健康な状態」なのかもしれない。

ハクマン第164回

(つづく)
次回更新予定日 2026-6-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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