ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第30回
大概、出版社か、担当編集者に対してである。
漫画家がツイッターで告発すると言ったら、もはや漫画とは関係ない侮辱を受けたり、納得いかない理由での掲載差し止め、契約不履行、というもっと生々しい事柄である。
原稿料未払いや、どう見ても報酬と見合わない仕事やタダ働きをさせられたという金にまつわる話も多い。
我々漫画家には原稿料と印税が支払われるが、単行本の表紙や書きおろしはロハという特に納得する理由がない慣例がある。
また、サイン本や色紙など販促物制作も基本タダである。
もちろん、作家にも読者に対しては「サービス」という概念があるので、タダ仕事はビタイチしたくないと思っているわけではない。
しかし、読者サービス、販促、という言葉を使って、ここで作家に無茶をさせすぎると告発に繋がりかねない。
しかも、ただの暴露ではなく漫画家は「告発漫画」を書く。
どれだけタダ原稿を描きたくない漫画家でも、かの邪知暴虐の担当を燃やすためなら、いくらでもタダで描く。
漫画にした方が広まりやすく燃えやすいという江戸の火事にすることができるからだ。
ちなみに私はサイン本を最大700冊描いたことがあるが、ツイッターには「殺害予告」だけで、告発は特にしなかった。
何故なら、サイン本というのは、書店買取になるので返品されないというメリットがある。むしろ返品封じのために、全部に書いても良いぐらいだ、部数が少ないので不可能ではない。
ただしこれが「色紙700枚」だったら、どうなっていたかはわからないし、少なくとも私は娑婆にいない気がする。
つまり、私は10年、漫画家をやっている幻覚を見ているが、告発マンガを描くような目にあったことはない。
企画段階で水泡に帰すことは日常茶飯だが、納品した原稿が載らなかったとか原稿料が支払われなかった、というようなこともない。
世の中には、高圧的で暴言を吐くような編集者もいるようだが、私の担当は「ヤクザも偉くなるほど紳士的」「ホンモノのサイコパスは常に笑顔」という法則を忠実に守っている奴ばかりなので、恫喝を受けたようなことは一度もない。
では、何故いつも担当に対し殺意を抱いているのか、というと特に理由はない。
会ったこともない作家のサクセスを本気で妬める俺様である。担当に特に理由のない殺意を向けるなど朝飯前である。