ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第74回

ハクマン第74回
1年が経つのが早い。
「とりかえしがつかない」を
膝で理解した昨今である。

私が同業と関わりを持たなかったのは、相手がサクセスした時本気で憎んでしまうため、相手のためにも関わるべきではないと判断したからだ。

しかし今年同業と話してみてわかったことは「他の作家も割と同業者のサクセスを憎んでいる」ということである。

今まで、ここまで嫉妬心が強く、心が狭いのは俺様ぐらいのものだと思っていたのに、みんな同じぐらい狭くて驚愕した。
今まで自慢げに言ってきた「ツイッターに見ず知らずの作家の聞いたこともない作品のアニメ化情報が流れてきただけで一日中怒れる」というのが、特別どころか「あるある」だったのである。
つまり「私ぐらいになると一日中呼吸しちゃうんですよね」と言っていたようなもので、顔真っ赤である。
しかし「『重版』をミュートワードにしている」をやっている人間は他にいなかったので、まだこの世界で抜きん出れる可能性はある。
よって、来年の目標はここからどれだけ心を狭くしていけるかである。もはやメディア化に嫉妬しているぐらいではだめだ。商業デビューや書籍化にも逐一腹を立てていかなければならない。
トップ層ともなればその差は僅差である。
「コミティアで編集の名刺をもらった」というつぶやきにも嘔吐する、その0.1ミリの心の狭さで金か銀かが決まるのだ。

つまり、私が誰かのアニメ化情報に嘔吐しながら怒っている時、誰かが私の新刊発売情報を見てえずいているかもしれないということである。

誰しも自分が殺される側になる可能性は考えても、殺す側になるとはあまり考えないものだ。
逆に殺すことしか考えていないという方もいらっしゃるとは思うが、どちらにしてもどちらか一方側にいる時、もう一方側の気持ちや自分がそっちになる可能性をあまり考えられないものである。
傷つきやすい人間ほど自分が他人を傷つける可能性など1ミリも考えてない剝き身のサバイバルナイフみたいになっている場合がある。

よって何かいいことがあった時、それを呟くことで、画面の向こうで誰かが吐いているかもしれないということを想像し、配慮しなければならない。

などということは全くない。人の吉事で勝手に吐いている方が悪い、いい加減にしろ。

ハクマン第74回

(つづく)

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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