ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第86回

ハクマン第86回
私も夫や実家のことは
エッセイに相当書いており、
もちろん無許可だ。

「貴様見ているなッ!」

まさか私があの DIO 様と同じ状況になるとは夢にも思わなかった。

夫はそういう匂わせはしても、私の書いているものに対し直接何か言ってくることは一向にないのだが、それが却って怖い。

夫のことを書く時は慎重に、もしくはどこまで書いたら直接キレてくるかチキンレースを挑むか判断に迷うところである。

しかし、もしブチ切れて私に猛ビンタをかましてしまったらそれすらエッセイに書かれるに決まっているので、エッセイをやっている奴の家族というのはつくづく不利である。

私は至る所で「保険業をやっている奴とは結婚するな」と言っているが、夫も「エッセイをやる奴とは結婚するな」と言っている気がする。

このように夫が気づいている可能性は高い、というかもはや確だが、さすがに実家は気づいていないだろう。

何せ両親はもう後期高齢者である、少なくともネットで連載しているようなエッセイを目にすることはないだろう。

しかしこの「親はこういうのに疎いからわからないだろう」こそが、時代にかかわらず、子供が持つ親に対する最大の油断である。

今中高生で「親はこういうのわからないだろう」と思っている人は、今すぐその油断と甘えを捨てるべきだ。

今の中高生の親といえば40前後と思うが、同年代である私が Twitter を一日68時間見ているのだからわからないはずがない。

この「親はわからないだろう」という油断から、裏垢まで母親に押さえられ、初体験の日まで母親に把握されている男子高校生が実在するのである。

今後エッセイをやる人がいたら、家族ならネタにして良いというわけではないので、ネタにするときは慎重に行ってほしいし「本人が見ている」前提で書いてほしい。

ちなみに「担当編集」はいくらでも無許可でネタにしていい。
もちろん担当にも基本的人権はある、しかしその下に小さく「※ただし尊重しなくて良い」と書かれているので安心して侵害してほしい。

ハクマン第86回

(つづく)
次回更新予定日 2022-7-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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