ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第99回

ハクマン第99回
見落としがちだが、
就職したければ
「会社員の才能」が必要だ。

なぜ15年も学生をやってこのような判断ミスをしてしまったのかというと、基本的に自分を過大評価しすぎというのがある。
また学校に行くだけは行けていたというのも今思えば悪かったような気がする。

もっと「朝起きれず学校に定時に行けたことがない」などわかりやすい才能のなさを発揮できていれば会社に行ったところで朝礼の途中で後ろのドアからこっそり入ってくる奴にしかならないので最初から会社勤めは諦めることができただろう。

ところが私は、朝は起きられたし学校を休むこともほとんどなかった。
これは野球で言えばトスバッティングだけ上手いみたいな話である。
実際は学校に行っているというだけで、友達はいないし授業中に落書きばかりしていた。

こういう奴が会社に入ったところで、会社は休まないし遅刻もしないが、周りと協調しないし仕事中にツイッターを見ている奴になるだけである。

学校に休まず通えていてもこれだけ社会性がないのだから、逆に言えば学校に行けていないからと言って社会性がないわけでもない。

昔「中学を不登校で高校に行かず漫画家になりたい」という夫の知人の娘に私がアドバイスをするという地獄のようなイベントがあったが、話してみるとその子も学校でいじめや孤立をしているというわけではなく、友達も普通にいるのだ。
昔に比べ不登校は増えており、私の周りにも多いため、もはや驚かなくなっているが、それらの子供たちがそのままひきこもりニートというエリート街道を走るかというと、学校に行かずとも何らかの方法で卒業進学をしてつつがなく就職しているケースの方が多いので、いつも裏切られた気持ちでいっぱいだ。

片や私は、毎日学校に行っていたのに友達もいなかったし現在はこのありさまである。
「学校に通えている」というのは大した判断基準ではないので、そこまでこだわらなくてよい。むしろ「学校には通えていた」という一点突破が判断を大いに狂わせる可能性の方が高い。

「学校に行ける」というのを「会社で働くことができる」だと勘違いしてはいけない。

「会社に行って呼吸ができる」ぐらいのものだと思った方がいい。

ハクマン第99回

(つづく)
次回更新予定日 2023-1-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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