北杜夫のオススメ作品を紹介
『どくとるマンボウ』シリーズのようなエッセイを代表作に持ち芥川賞や大佛次郎賞を受賞するほどの優れた作家、北杜夫の作品をご紹介します。
『どくとるマンボウ』シリーズのようなエッセイや、『楡家の人びと』を始めとする純文学、さらにはファンタジーや児童文学まで多彩な作品を生み出した北杜夫は、歌人・齋藤茂吉の息子としても知られる人物です。芥川賞や大佛次郎賞を受賞するほどの優れた作家でありながら、躁鬱病、昆虫への偏愛、医学への深い造詣などの様々な表情もあわせて昭和の文学史に名を残した、北杜夫の作品をご紹介します。
どくとるマンボウ航海記
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101131031
北杜夫の代表作の1つであるこの作品は、水産庁の漁業調査船に船医として乗船した彼が、5カ月の航海の思い出をユーモアたっぷりに描いた航海記です。特別な大事件はありませんが、ヨーロッパ、アジア、アフリカ各国を巡る中で北杜夫が見聞きした出来事を、独自の感性にもとづきみずみずしく表現しています。思わずクスッと笑ってしまう文章の連続で、初期作品でありながらその才能を十分に感じさせ、思わず旅に出たくなる1冊になっています。
のどかな笑いをふりまきながら、青い空の下をボロ船に乗って海外旅行に出かけたどくとるマンボウ。独自の観察眼でつづる旅行記。
どくとるマンボウ追想記
『どくとるマンボウ』シリーズの中でも幼少期にあたる時期を描き、少年として過ごした昭和初期の記憶を振り返る作品です。シリーズの他作品に対し比較的淡々と思い出が語られており、北杜夫の生い立ちを理解し、他作品を深く理解するためには欠かせない1作として位置づけられています。北杜夫特有の上品なユーモアセンスはそのままに、胸を締め付けられるノスタルジーを含みこんだエッセイであり、東京大空襲を始めとする戦争体験記としても重要です。
父・斉藤茂吉の話も随所に登場し、幼少期の体験を飾り気のない文体で綴った自伝。幼少期の記憶がモチーフとなった、多くの北杜夫作品を読み解く鍵になる重要作品。
夜と霧の隅で
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101131015
第43回芥川賞を受賞した北杜夫の代表作であり、医学博士、精神科医としての知識やキャリアを活かしたフィクション作品です。第二次世界大戦中のナチスドイツによる、不治の精神病患者を安楽死させるという決定に対し、苦悩し抵抗する精神科医たちの極限状態が描かれています。追いつめられた状態での人間たちの絶望や不安だけでなく、人間そのものの矛盾にまで切り込んだ、鬼気迫る作品として多大な支持を得ています。
ナチスの指令に抵抗して、患者を救うために苦悩する精神科医たちを描き、極限状況下の人間の不安を捉えた表題作など初期作品5編。
幽霊―或る幼年と青春の物語
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101131023
北杜夫の幼少時代を土台にしながら、自然や昆虫への親愛、母親への慈愛などの感情を情感豊かに織り込んだ、ある少年の物語です。少年が慕い焦がれる女性たちの姿、野原で彼と戯れる昆虫の生命が繊細な筆致で描かれ、ファンタジックでありながらどこか物悲しいストーリーが展開していきます。戦争前後の時代を背景にし、夢と現実の狭間で揺れ動く少年の独白からは、思春期独特の神聖さや不安定さがせめぎあう様がリアリティをもって迫ってきます。
大自然との交感の中に、激しくよみがえる幼時の記憶、母への慕情、少女への思慕――青年期のみずみずしい心情を綴った処女長編。
少年・牧神の午後
北杜夫の心を生涯とらえて離さなかった、少年時代をモチーフにした作品の1つです。表題作の『少年』では、少年特有の純真さが喪失してゆく様を幻想的でみずみずしいタッチで描いており、『牧神の午後』では眠りから覚めた牧神が音楽の勝負を行うという、いっそう神話的な世界を表現しています。北杜夫の初期作品に特有の荒削りでありながら、過去への切ない憧憬が端々からにじみ出る文体は、発表から50年以上が経とうとする現在でも高く評価されています。
病弱な少年の病気への密かな親しみや、発熱によって開かれる想像力の世界を描く「病気についての童話」。
牧神がまどろみから目覚め、パンの笛とアポロン の竪琴による音楽勝負に挑む、詩的世界を描く「牧神の午後」。
精神を病んでいく主人公がある日知った、『狂詩』という言葉の意味と、心理の変換を描く「狂詩」。
少年の無垢な純真性喪失を瑞々しく描く「少年」。
北杜夫初期の繊細な世界が、7篇の小編を通じて拡がっていく珠玉のカップリング集。
最後に
北杜夫のオススメ作品は如何でしたか?
今回ご紹介した『どくとるマンボウ追想記』『少年・牧神の午後』はP+D BOOKSにて、紙と電子の書籍で発売中です。
ためし読みも公開していますので、北杜夫の作品を一度手にとってみてはいかがでしょうか?
『どくとるマンボウ追想記』の試し読みはこちら
『少年・牧神の午後』の試し読みはこちら
初出:P+D MAGAZINE(2016/10/07)