【おすすめラノベ教室】ラノベに苦手意識持ってない?
その作品、もしかしたらラノベかも?ラノベと純文学の関係。
豊城:ラノベの歴史はざっとわかりましたけど、普段ラノベをほとんど読まない私が読んでもおもしろい作品ってありますか?
田中:じゃあ逆に聞くけど、豊城さんは乙一や冲方丁、桜庭一樹は好き?
豊城:はい、どの作家もだいたい読んでますし、好きですよ。
田中:これらの作家は全員、ラノベ出身だよ。
豊城:えっ!
田中:乙一のデビュー作、『夏と花火と私の死体』は第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞(現在のジャンプ小説新人賞)を受賞しているし、角川スニーカー文庫から『失踪HOLIDAY』、『さみしさの周波数』といった作品が出版されてる。最初はラノベ作家としてのイメージも強かったけど、『GOTH リストカット事件』では第3回本格ミステリ大賞を受賞したりと、ラノベの枠にとらわれない活躍を続けているね。
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豊城:冲方丁は『十二人の死にたい子どもたち』が直木賞の候補作になりましたし、桜庭一樹は『私の男』で直木賞を受賞したりしていますよね。そんな方たちもかつてラノベを書いていたなんて驚きました。
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田中:サイバーパンク色(※)も強い作品、『マルドゥック・スクランブル』を書いている冲方丁は、『冲方丁のライトノベルの書き方講座』で書き方そのものをレクチャーしてるくらい。
※人体と機械が融合し、脳の情報処理とコンピューターの情報処理の融合が「過剰に推し進められた社会」を描いたSF作品のジャンル
桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』はもともと少女漫画みたいな表紙や挿絵が入っていたけど、グロテスクかつショッキングな内容に読者は騒然としたものだよ。しかも、当初は、ラノベ系文庫として発売された後に一般文庫から発売されたのも珍しかったんだ。
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豊城:『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は読みましたけど、もともとラノベだったんですね。
田中:一般文庫化したときに表紙もシンプルなものになったし、挿絵もすべてカットされたんだよ。『私の男』と同じく、徐々に時間をさかのぼって真相が明らかになっていく手法が話題になったんだ。
豊城:私は知らないうちにラノベを読んでいた……ということですね。
田中:そういうこと。
ラノベを読まない人にこそおすすめしたい、ラノベ3選。
田中:それを踏まえて、あらためて豊城さんにラノベをおすすめするのであれば、野村美月の『“文学少女”シリーズ』なんてどうかな。
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豊城:これ、いろいろな文学作品がモチーフになってるんですね。『人間失格』や『外科室』、『銀河鉄道の夜』……私の好きな作品ばかりです。
田中:自称“文学少女”の主人公、遠子は文字通り小説のページを紙ごと食べてしまうようなキャラクターだよ。語り手でもうひとりの主人公、心葉は、遠子におやつを提供するために三題噺を書いているっていう設定もユニークだよね。
豊城:小説を食べるという設定から、感想を味で表現するのもおもしろいですね。フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』の感想が「すごく華やかな味。虚飾と栄光と情熱がワルツを踊っていて、パーティーで、きらきらのキャビアをシャンパンと一緒にいただいてる気分。歯をあてると繊細な薄皮がぷちんとはじけて、薫り高い液が舌の上にこぼれてくるの。」って、今までになかった視点です。
田中:シリーズ1作目の『死にたがりの道化』では、『人間失格』のあらすじに沿って事件が展開していくんだけど、誰もが知っている文学作品を大胆に取り入れながら上質なミステリー作品にしているのはすごいと思う。
豊城:作者の文学への愛を感じますね。ぜひ読みたいです。ほかにもありますか?
田中:続いておすすめしたいのは成田良悟による『バッカーノ!』。禁酒法時代のアメリカを舞台にした群像劇だよ。イタリア語で「馬鹿騒ぎ」を意味するタイトルどおり、シリーズを通して90人以上のキャラクターが不死の酒をめぐって馬鹿騒ぎする作品なんだ。
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豊城:90人も?!さすがに覚えられない気がします……。
田中:大丈夫、それぞれのキャラクターに個性があるし、誰が誰だかわからなくなるようなことはないはず。1巻ではチンピラから泥棒カップルまで、とにかくいろいろなキャラクターが出てくるんだけど最終的にひとつの結末に行き着くのが魅力なんだよね。
豊城:シリーズを通して、いろいろな年代で物語が描かれているんですね。
田中:不死者が登場するから、1700年代、1930年代、2000年代と別れてるんだよ。作者は他にも池袋を舞台に高校生やチンピラたちが登場する『デュラララ!!』など、群像劇を得意としているから、群像劇が好きならぜひ読んでほしい。
最後に紹介したいのは河野裕の『サクラダリセット』。記憶を保持する能力を持った主人公と、世界を3日分巻き戻す能力を持ったヒロインの物語だよ。
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豊城:時間を巻き戻す……つまり、『時をかける少女』みたいな感じなんですか?
田中:それぞれの能力を使って依頼を解決していくのが中心だから、ちょっと違うかな。それと、異能力をもって敵と戦う「文豪ストレイドッグス」のようなバトルものでもないよ。
(合わせて読みたい:大人気作「文豪ストレイドッグス」に登場する小説家たちの素顔)
豊城:たしかに、1巻で舞い込む依頼が「死んだ猫を生き返らせてほしい」なので、バトルものとは程遠い印象があります。
田中:ふたりの能力はそれぞれ単体だとあまり意味をなさないけど、ふたりが組むことで「そうなるとは!」と予想を裏切ってくる展開もおもしろい。異能力=バトルものっていう流れに一石を投じる作品として、もっと多くの人に読んでほしいな。映画化やアニメ化もしてるし、今後もっと人気になるはず!
まとめ
豊城:今回解説してもらわなかったら、私ラノベに対して偏見を持ったままだったと思います。
田中:誤解を受けやすいジャンルではあるけど、ラノベは時代とともに進化を続けているし、おもしろい作品もどんどん生み出されているものでもあるんだよ。
豊城:なるほど、私も今後「どうせラノベでしょ?」なんて思わずに、おもしろそうだと思ったらちゃんと読んでみたいです。読みます!
<了>
初出:P+D MAGAZINE(2017/04/22)
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