辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第15回「親と子、遺伝と環境」
「執筆」の遺伝率は
80%超だというが…?
でも別に、私の両親は会社員と専業主婦だったし、祖父母も似たようなものだし……もし遺伝の影響があったのだとすれば、いったい私は誰の特質を受け継いで、文章を書く仕事をするようになったのだろう?
──と、とりとめもなく思考を巡らせていると、母方の祖父のことを思い出した。彼は情報通信系の企業に勤める会社員だったけれど、学生時代から亡くなるまでの約60年間、毎日日記をつけ続けていたのだ。そういえば、その娘である私の母も、マイホームを建てたときのことを詳細にブログに書き、なかなかのアクセス数を集めてハウスメーカーから感謝(?)されたりしている。
日記、ブログ、小説。形は違えど、文章が好きなことには変わりない。私が長文を書くのにあまり抵抗がないのは、そうした特質を受け継いだからだったのかもしれない。自分が親やその上の世代から何かを与えられてきたのだと実感すると同時に、自分は子どもに何をあげられたのだろうかと、思わず考え込んでしまった。
遺伝と環境。学生のときからなんとなく興味を持っているテーマで、先月刊行した『二重らせんのスイッチ』で扱ったりもしたけれど、やはり非常に神秘的だ。人の親になり、日々自分の子どもたちを観察している今、余計に思う。親子は似ているようで似ていないし、似ていないようで似ているのだ。
ちなみに性格の遺伝率はどうなのか、というと、それほど高くないようだ。先ほどの記事を参照するに、「同調性」や「勤勉性」といった細かい項目により異なるものの、おおむね30~55%程度。なるほど、クレヨンを一本出したら次のクレヨンを出す前に必ず箱にしまったり、ズボンの裾が少しでもめくれて肌が出ていると一生懸命引っ張って隠したりする娘の几帳面な性格はどこからきたのかと疑問に思っていたのだけれど、親はそんなに関係ないのか。おおざっぱな親のもとに、正反対の特質を持つ娘が生まれたりする。これって、すごく不思議なことだ。
共通する部分があったりなかったりする、自分のお腹から生まれてきた、自分とは別の人間。
この子たちが私の人生や考え方をどう揺さぶってくれるのだろうと思うと、今後の数十年が楽しみでならない。ああ、長生きしなくちゃなぁ。
(つづく)
東京創元社
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。最新刊は『二重らせんのスイッチ』。