辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第16回「編集者さんの産休・育休」
「育休」を取得した夫。
実際は心理的負担が大きくて…。
2022年6月×日
「毎回俺の名言から始まる子育てエッセイってどうかな?」と、夫が突然提案してきた。
何を言っているんだ。却下。
どうも夫、そういうところがある。自分たちの日常がこうして発信されているのが面白いらしい。私にとっては喜ばしいことだ。家族のことを書く仕事は、家族の応援なしには実現しえないのだから。……とありがたみを噛みしめると同時に、まだ自分の意思を表明できない2歳児と0歳児の生態については、慎重に表現していかなければならないなと、いずれ大きくなる彼らの姿を思い描きながら、改めて自戒したりもする(基本的に子ども関連の知り合いには自分の職業を正確に伝えないことにしているのだけれど、以前「王様のブランチ」のブックコーナーに出演したところ、保育園の先生に素性がバレたこともあったし……。テレビの影響力は凄まじいですね)。
そんな乳幼児2人は、相変わらず順調に成長している。この間は、「引っ越し準備のため本棚から本を取り出して段ボール箱に詰めていると、娘が本を1冊ずつ手渡して手伝ってくれる」「『お散歩いこうか』と声をかけてから息子を抱っこして玄関にいくと、娘がいつの間にか正しく靴を履いて準備を整えている」「飲食店を出る際、娘が店員さんにぺこりと頭を下げて『ありがとー』と言い、バイバイと手を振る」の3つの初体験の出来事が同日に発生し、思わずじーんときてしまった。一方の息子は、もう生後半年だしストロー練習させなきゃ~とストローマグを口に近づけたところ、ものの見事に一発で成功した。前世で練習してきたのだろうか? とにもかくにも、親としては微笑ましい、成長の1コマの連続である。
近況報告はこれくらいにして──つい最近、とても嬉しいことがあった。
普段から本当にお世話になっている某社の担当編集さんが、お子さんを出産されたのである。
初産にもかかわらず進みが速くてトラブルのない安産だったと聞き、心から安堵した。喜びのラインのやりとりをし、お子さんのお名前を聞き、いてもたってもいられずにお祝いの食事用エプロンを送り、そして連載原稿を提出した。
連載原稿を……提出した。
祥伝社
東京創元社
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。最新刊は『二重らせんのスイッチ』。