辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第2回「赤ペンが好きすぎる」
大きな誤算があって……。
人気作家の子育てサバイバル!
要は、「細長くて硬いものを口に入れてみたい欲求が強い」ということなのだろう。その記念すべき最初の対象となったのが、色が鮮明な赤ペンだったというわけだ。
まったく、危なくてしょうがない。でもまあ、おかげで歯磨きは楽で助かっている。
まだ言葉が話せない子どもの思考を読むのは難しい。別に読む必要もないのかもしれないけれど、どうせなら思考回路を紐解いてみたくて、ついつい分析してしまう。小さな子どもというのは、いったい何を考え、何に喜んだり悲しんだりしながら、日々を過ごしているのだろう。これこそ真の日常の謎、ミステリーだ。
友人の子どもを見ていても、好きな色やおもちゃやテレビ番組には個人差がある。これって、遺伝による気質の差なのだろうか。それとも生まれてから今までの親の働きかけが関係している? だとしたら、娘が赤ペンや黒ペンをやたらと好み、私がパソコンの電源をつけるといそいそとそばに寄ってきて、キーボードやマウスをとにかく触ろうとするのは、私の仕事風景を普段から見ているからなのだろうか。
親が触っているものは触りたい。親が食べているものは食べてみたい。1歳を過ぎて、そうした欲求が日に日に大きくなりつつある気がする。せっかく作家は自宅でできる仕事だからと、今は保育園に行かせる日数を週1、2回に抑えているけれど、これから先、だんだん難しくなってくるのだろうか。
と、ここまで書いたところで、ちょうど娘がお昼寝から目覚めてきた。子育てと執筆の両立についてもう少し書こうと思っていたけれど、長くなったのでそれはまた次回にさせていただくことにする。
寝起きは機嫌が悪いから、しばらく膝の上に乗せてあげることにしている。あっ、やっぱりキーボードに手を伸ば⑦777777777777m。そして私のスマートフォンを両手で持って、頭上に振り上げ始めた。お願いだから、床に叩きつけないでね。
(つづく)
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。