辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第39回「メルちゃん失踪事件」

辻堂ホームズ子育て事件簿
育児中避けて通れない
数々の「未解決事件」。
諦めかけていた事件に動きが!?


 2024年5月×日

「ママぁ、しょうわのひ、ってなに?」

 世間はゴールデンウィーク。小説家は決まった休日のない稼業だけれど、子どもたちが幼稚園や保育園に通っている以上、連休はカレンダーどおりに訪れる。

「昭和天皇、っていう人のお誕生日だよ」

「しょうわてんのう、ってだれ?」

「偉い人だよ。だから幼稚園がお休みになるんだよ」

「ふうん……でも●●ちゃんもえらいよ、せんせいのおはなしちゃんときけるし、すわってるときおひざグーにできるし……」

 偉い人、の括りで不敬にも昭和天皇に対抗しようとする4歳娘である。

 2歳息子も成長が著しい。先日、朝ごはんのあとに保育園のリュックを初めてひとりで背負い、親が促さずとも自発的に登園のお支度ができた! ……が、残念。その日は5月3日。憲法記念日で保育園はお休みだ。

 我が家は夫も私もインドア派。ゴールデンウィークはどこも混んでいるからと、特に家族で遠出はしなかった。いろんな公園やお店に連日子どもたちを連れていきつつ、庭の草むしりや家の片付けなどのまとまった家事をして過ごす。これはこれで有意義だ。子どもがいると、とにかく物が多くなる。誕生日やクリスマスのたびに増えていくおもちゃ、学期末に園から持ち帰ってくるたくさんの作品たち、雛人形に五月人形、セールの時期にベビーカーの荷物掛けフックを破壊せんばかりの勢いでまとめ買いしたおむつのストック、衣替え後はしばらく不要になる冬物の衣服や布団。とっくにサイズアウトした大量の服や、単なる物置と化しているベビーベッドも、次の子が使うと思うと捨てられない。君たち(お腹の子も含めて)……図体は小さいくせに、なかなか一人前にスペースを占拠するよなぁ……!

 夏の出産に備えて新生児用の服を引っ張り出し、上の子たちと共用の洋服箪笥に収納する。園で制作した作品たちは、ちょうど前々回のエッセイで取り上げたタブレット学習の入会特典でポケモン柄の巨大な作品収納ボックスを2つもゲットしていたので、その中に入れて2階の納戸へ。対象年齢が合わなくなり出番が減ってきたおもちゃは押入れの奥へ。

 細々とした物が多く、気が遠くなりそうになるけれど、せっせと動き回れば家は着実に綺麗になっていく。ソファの下、掃き出し窓のサッシの隙間など、思わぬところからおもちゃのパーツが発見されたりもする。お絵描きボードのペン、レゴブロック、ピンポン玉サイズのボール……。ずぼらなもので、すべてのパーツがそろっているか毎晩必ず確認していたのは娘が1歳半くらいの頃まで。今ではおもちゃのパーツが1つや2つ足りなくても完全放置である。完全放置。子どもは時に、大人の想像を超えた場所におもちゃを隠す。見当たらないパーツを躍起になって探し回ったのに見つからず、もしや知らぬ間にゴミ箱に入れられて捨ててしまったのかなぁと意気消沈しながら眠りにつき、仕方なくネット通販で注文したりした翌日に、なくなったはずのパーツを子どもがひょっこりどこかから持ってくる──そんな経験を積めば、誰でも諦めの境地に達するというものだ(いや私だけなのか?)。「ママぁ、レゴのしろいわんちゃんがないよー」「(座ってコーヒーを飲みつつ)ママも分かんないなぁ、そのへんお片付けしたら出てくるんじゃないー?」とまあ、母親になって以来、生まれつき持ち合わせていた適当さが日々加速し続けている。よくないよくない。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.149 紀伊國屋書店浦和パルコ店 竹田勇生さん
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