辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第40回「私は裁判所」

辻堂ホームズ子育て事件簿
しばしば勃発する姉弟ゲンカ。
二人ともが納得する公平な
ルール作りが、思いのほか難しい。


 2024年6月×日

「髪チョキチョキしにいこう」

「やーだ! えーんえーん、しちゃうもん」

「頑張れ頑張れ。お、ちゃんといい子に切ってもらえてるねぇ」

「えーんえーん、してないよ!(得意顔)」

 幼い子どもの髪を、親が抱っこしたまま切ってもらえる理容室を、最近重宝している。頭を出すところが2か所ある親子散髪ケープを用意してくださっているため、ハサミやドライヤーを怖がってしまう子どもを、親が膝の上で落ち着かせながらカットしてもらえるのだ。女の子は前髪だけ揃えればなんとかなるけれど、男の子は……。それでも1歳台までは頑張って私がセルフカットしていたものの、あるとき髪を梳こうとしてギザギザの仕上がりになってしまってからは自信を失くし、保育園経由でたまたまクーポンをいただいた理容室に頼るようになった。

 ──というわけで、冒頭の会話は2歳半の息子とのものである。あれれ、つい最近まで、似たようなレベルの会話を娘としていたような気がするのだけれど……(ちなみに息子の髪を切ってもらっている間、親子でケープにくるまっている様子を撮影してもらおうと娘にスマートフォンを持たせたところ、15分足らずの間に同じ構図の写真を400枚以上撮影していた。そ……そんなに要らない!)。

 2歳半の時点ではまだ単語をやっと2つ繋ぐレベルだった娘に対し、今や4歳の姉とほぼ対等に(?)口喧嘩をしている息子。トイレトレーニング中の息子を家でトイレに連れていこうとすると、「ママ、かいだん(のところ)にいてね。きちゃダメよ。わかった?」などと、まるで親子の立場が逆転したかのように言い含められ、トイレから閉め出されることもしばしば。しかも補助便座さえつけておいてあげれば、勝手に用を足して戻ってくる。子どもの発達の経過とは、同じ親から生まれたきょうだいでもここまで違うのかと驚くばかりだ。

 上の子として育つか、下の子として育つか、という立場の違いも大いに影響しているだろう。やはり、気のせいじゃなく、下の子は強いと思うのだ。初めのうちは、一生懸命姉に「かーしーて」とおもちゃをねだっても、「あーとーでーね」と幼稚園から輸入してきた便利な言葉で受け流され、自分の希望が叶わない。しかしそのうちに2つ年上の姉のやり口を学習し、「あーとーで」「さわっちゃダメ!」「これも●●くんの!」「レゴ、しないで!」などと一人前に反撃するようになる。

 最近、おもちゃの奪い合いで泣かされているのは、もっぱら姉のほうだ。

 いやぁ、2歳弟、強し。

 さて、こうなると、親の役目が変化してくることに気づいた。「おもちゃを投げてはいけません」「ご飯の前には必ず手を洗おうね」といった、どの家庭でも共通している〝答えの決まった〟躾をするだけでなく、子どもたちの関係性やそれぞれの興味関心を踏まえた上での、〝我が家独自の〟ルール作りが必要になってくるのだ。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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