辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第43回「これぞ令和の」
思いがけない理由で
私のサポートのもと妹をぎこちなく横抱きする息子と、抱っこじゃなくて膝枕ならばと姉妹の密接なふれあいをようやく許可してくれた長女。接し方は正反対だけれど、心から愛おしそうに赤ちゃんを見下ろす照れ笑いの表情は、どちらも変わらない。
そんな3人の子どもたちと戯れる時間をできるだけ大切にしつつ、この1か月を過ごしてきた。時に、新生児育児の洗礼(おむつ替えの最中に、2度目の強烈な噴射……)を浴び、ちょうど目撃していた上の子たちに絶句されながら。時に、「ママは髪の毛をサラサラにするために10日間の入院をしている」という設定で、頭や手や足に包帯(タオル)を巻かれ、ヤクルト(メルちゃんの哺乳瓶)を飲まされ、髪がサラサラになるお弁当(おままごとセット)を食わされながら。
前回のエッセイに、産後間もなく仕事を再開したと書いた。だけどさすがに退院後は上の子たちのお世話もあるため、空き時間にはのんびり読書などをして身体を休めている。……いや、なんだかそわそわして、退院後2日で、お宮参りの写真スタジオ予約から次女の保育園の申請書類準備まで全部済ませちゃったけど。……産後2週間で創元ミステリ短編賞の選考会にリモート参加し、翌日には選評も仕上げて編集者さんに送っちゃったけど。……この子育てエッセイだって、すでに産後2本目なんだけど。……でもまあ、ゆっくり休むことが苦手な私にしては、頑張っているほうだといえるだろう。少なくとも、本業(?)である小説の執筆はまだ始めていない。
そうしているうちに、冒頭の健診当日に至る。
火曜の午後。生後1か月健診専用に設けられた時間帯らしく、待合スペースには小さな乳児を連れた親御さんたちしかいない。全部で8組。ここにいる赤ちゃんは全員、うちの次女と誕生日が1週間も変わらない子たちなのだろうと思うと、親近感がわく──のだけれど。
私、よく見ると場違いなのだ。
というより、仲間外れというべきか。
あっさり答えを明かしてしまうと、私以外はみんな、3人組だったのである。子×母×父の組み合わせが5組。子×母×祖母の組み合わせが2組。さらにほとんどの親子は大きなA型ベビーカーを装備していた。抱っこ紐に赤ちゃんをぽんと入れて、すべての荷物を一人で持って小児科に乗り込んでいた母親は、なんと私だけだったのだ。
先に補足しておくと、私の夫や母が同行を断ったわけではない。私が誘わなかったのだ。というのも、第1子や第2子のときも、産後の健診は付き添いなしで行っていた。特に第2子のときはコロナ禍だったこともあってか、勝手にそういうものだと思っていたし、今回のように生後1か月健診の受診者だけが待合室に集められていたわけでもなかったため、特に違和感は覚えなかった。
それが、なんということだろう。
生後1か月健診って、旦那さんやお母さんと一緒に来る人がこんなに多かったのか!
しかも平日の日中なのに、旦那さんが同行する割合がこんなに多いのか!
私ももっと気負わず、夫に声をかけてみればよかったのか!
これぞ令和の子育て現場! といたく感心して、周りのご夫婦をしげしげと観察してしまった。いやはや、私だって令和に入ってから3回も出産を経験しているのに、どうして今まで気づいていなかったのだろう。まさか男性による産後の育児参加がこれほど──単身乗り込んだ私が浮いてしまうほど──進んでいたとは思わなかった。このところ、男性の育休取得率がどんどん向上しているからだろうか。素晴らしい世の中になってきたものである。
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。