辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第43回「これぞ令和の」

辻堂ホームズ子育て事件簿
3度目の〝1ヶ月健診〟。
思いがけない理由で
周囲から浮いてしまい…!?

 先日、アパレルメーカーがSNSで炎上し、商品が販売中止に追い込まれる騒動があった。『パパはいつも寝てる』『パパは全然面倒みてくれない』などと書かれた新作の子ども向け衣類が、子育て世帯の男性をけなしているとして、多くの人々の反感を買った、というものだ。

 また、今日は偶然、最近のドラマのトレンドに関するネットニュースを目にした。一昔前までよく描かれていた「不器用ながら子育てにドタバタ奮闘する、家事育児経験ゼロのパパ」という男性像はもはや視聴者の共感を得られにくくなっていて、このごろは家事育児を完璧にこなす、もしくは高いレベルで真摯に取り組もうとする父親がドラマ内で描写されることが多いのだという。

「仕事も家事も育児もバランスよくこなす男性」という、スーパーマンのように見えなくもない存在が、いつの間にか理想ではなく、現実になっている。

 こうした風潮の変化を肌で感じるたび、じゃあ女性も頑張らなきゃな、と気が引き締まる。「仕事も家事も育児もバランスよくこなす女性」──口に出すとかっこいいけれど、有言実行するのは大変だ。いざというときに金銭的に家庭を支えるのは男性の役目だよね、つらくなったら仕事をやめたり減らしたりすればいいよね、などと悠長に構えてはいられない。何があってもとにかく働いて、家にお金を入れる。そのお金で、自ら家事と育児をこなしながら、子どもたちを育てる。もちろん家庭により役割分担はさまざまだろうけれど、そこまで含めての子育てなのだと、改めて肝に銘じる。

 最近たまに、疲れているときや眠いときに、長女が「ようちえん、いきたくない」と言い出すことがある。「うーん、●●ちゃんが幼稚園に行ってくれないと、ママがお仕事できなくて、お金がもらえなくなっちゃうなぁ」と私は答える。またあるとき、将来的に車を買い替えるかもしれないからと家族で車の販売店を訪れると、「このくろいくるま、あしたかって!」と長女が駄々をこね始める。「うーん、お金がたくさん貯まってからじゃないと、大きな車は買えないなぁ」と私はお茶を濁す。

 その結果、長女は幼稚園に行く前に、私や夫にこう言い聞かせてくるようになった。「わたしがようちえんにいってるとき、ママとパパはいっぱいおしごとして、たくさんおかねをもらって、そして、くるまをかってね!」

 とりあえず、我が家の大黒柱は2本、と子どもには認識してもらえているようだ。それも、同じ太さ、長さのものが2本。生後1か月健診の待合スペースではうっかり浮いてしまったものの、令和っぽくて、実にいい感じではないか。

 だから私は今日も働く。1か月健診も終えたし、そろそろ出産前に書いていた連作短編の続きにでも取りかかってみようか。以前アイディアを提出したところ、『た、胎教によいのだろうか汗笑』と編集者さんからメールで返ってきた、〝黒い〟内容のものだけれども……。

 しょうがないよね。だって私、ミステリ作家ですもの。時に人が死んだり、嘘をついたり、裏の顔を見せたりするお話を書いて稼いだお金で──あなたの望む、黒くて大きな車を買うんだよ?

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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