辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第5回「名付けのプロセス」
悩ましい問題、子どもの名付け。
辻堂家の合理的な「システム」とは?
2021年7月×日
Q. 最近、1歳5ヶ月の娘が、玄関から自分の靴を何度も持ってくるようになりました。これはどういう意味でしょう?
A. 「お散歩に行きたいな〜」という意味です。
Q. それでも私が椅子から動かないと、娘は玄関に引き返し、今度は片手に自分の靴、もう片方の手に私のサンダルを持って戻ってきます。さて、これはどういう意味でしょう?
A. 「さっきからお散歩に行きたいって言ってますよね? なぜ言われてすぐに準備を始めないんですか?」という意味です。
まだ言葉を喋ることはない娘。けれど、1歳を過ぎて、どんどん知恵がついてきた。非言語的コミュニケーションでここまでできるものなのか、と驚かされる毎日である。
ちなみに上記の娘とのやりとりにはさらに続きがあって、何かしら事情があって私がなかなかお散歩に出ようとしないと、最終的には私のサンダルだけを両手に持って帰ってくる。1歳半にして、他人へのプレッシャーのかけ方がよく分かっているようだ。「お外行こうよ!」と直接的に駄々をこねられるより、こちらのほうが、無言の圧力のようでよっぽど怖い……ような気がする。
実は、そんな娘に、2歳違いの弟ができることになった。出産予定日は11月。
第2子の性別が判明したばかりというちょうどいいタイミングなので、今回は、娘のときのことも振り返りつつ、「子どもの名付け」について書いてみようと思う。
さっそく我が家の方針をお話しすると、夫と私の間では、「生まれてくる子どもと同性の親が名前を考える」というシステムを採用している。ただし、異性の親は、提出された案に対する強力な拒否権を持つ。同性の親は、異性の親の承認を得られなければ案を通すことができず、また別の候補を出さなければならないというわけだ。アメリカの政治で例えるなら、同性の親が議会で、異性の親が大統領といったところだろうか。
なぜこんなシステムで名付けをするのかというと、「子どもが一番喜ぶ名前って、同性のほうが浮かびやすいんじゃない?」というアバウトな理由による。もっと単純に言うと、私も夫も、異性の名前をつける自信があまりないのだ。例えば私の場合、男の子にしては可愛らしすぎる名前に惹かれたり、気がつくと流行ど真ん中になったりしてしまいそうで……。
ただ、もちろん、納得のいかない名前を子どもにつけるわけにはいかない。だから、異性の親は名前の考案にこそ関わらないけれど、拒否権は遠慮なく発動できることになっている。
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
\毎月1日更新!/
「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。