【究極のロマンス小説】現役編集長に聞く、「ハーレクイン」入門講座

言わずと知れたロマンス小説専門の小説レーベル、「ハーレクイン」。女性なら、一度はその中身が気になったことがあるのではないでしょうか。今回は、ハーレクイン作品を日本で出版しているハーパーコリンズ・ジャパンの編集長に、同レーベルにまつわる気になるあれこれを聞いてみました!

皆さんは、ハーレクイン・シリーズを読んだことがありますか?
ハーレクインは、言わずと知れたロマンス小説専門の小説レーベル。本の帯には、「永遠の愛」「許されぬ恋」「一夜にして結ばれたふたり」……。そんなロマンチックでちょっぴりドキッとするキャッチコピーが並びます。

女性向けロマンス小説といえばハーレクイン、というくらい、ハーレクインは知名度の高いレーベル。しかし、本屋さんではよく見るけれど、一度も読んだことがない……という方が、意外と多いのではないでしょうか。

そこで今回は、ハーレクイン作品を日本で出版しているハーパーコリンズ・ジャパンの編集長・小林恵さんにお話を伺うことに。ハーレクインにまつわる気になるアレコレを、ストレートに聞いてみました! 記事の最後では、初めてハーレクイン作品を読んでみたいという人向けに、おすすめの5冊も紹介しています。

 

小林恵さん

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株式会社ハーパーコリンズ・ジャパン
第一編集部 シニア・マネージング・エディター

 

日本上陸から38年! 根強い人気を誇るハーレクインのヒミツ

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――ハーレクインって、非常に歴史の長いレーベルですよね。日本では、いつから刊行されているんですか?

小林恵さん(以下、小林):日本で初めてハーレクインの恋愛小説が発行されたのは1979年です。再来年の2019年には、日本上陸40周年を迎えることになります。大もとの編集部はカナダのトロント、ニューヨーク、ロンドンにあって、日本で刊行されているものはすべて翻訳版です。

 

――ロマンス小説専門の出版社、というのはすごく珍しいように思えるのですが。

小林:最初からロマンス小説を専門的に出していた、というわけではないみたいですね。もともとは100年以上の歴史を持つイギリスのミルズ&ブーンという会社があって、その版権をカナダのハーレクイン社が買った形です。

ミルズ&ブーンは最初、ロマンス小説ではない、さまざまなジャンルのペーパーバックを出版していたそうなのですが、ハーレクインと一緒になってだんだん今のようなロマンス小説専門の出版社に変化していった……という流れです。
ハーレクインのロマンス小説は現在、30言語以上に翻訳されています。

 

――ハーレクイン・シリーズとして、日本では年間でどれくらいの新刊が出ているんですか?

小林:日本では年間およそ400冊の新刊を刊行しています。ハーレクイン・シリーズは毎月新刊を発売しているので、書店に並ぶ本がどんどん入れ替わっていくのが特徴なんですよ。ですので、雑誌のように楽しんでいただければ、と思っています。

 

――なるほど。小説の表紙を見ると「Romance」「Image」といった文字が書いてあるのですが、これは……?

小林:それは、ハーレクイン作品の中のシリーズですね。シリーズには大きく分けて、「ロマンス」「イマージュ」「ディザイア」の3種類があるんです。

ハーレクインを代表するシリーズが「ロマンス」。これがイギリスの編集部で作っているシリーズで、ハーレクインの中でも不動の一番人気、刊行点数ももっとも多いです。ドラマチックで、ラブシーンもしっかりあるのが特徴です。

「イマージュ」も、多くがイギリスの編集部で作られています。こちらは“テンダー”と呼んだりもするんですが、「ロマンス」よりもやさしい愛や、感動的な物語……などに重きが置かれているシリーズです。

3つ目の「ディザイア」は、名前の通りちょっと情熱的で、激しい描写の多いシリーズですね。こちらはアメリカの編集部で作られています。

 

ヒーローは絶対に、ゴージャスで尊大な成功者

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――ハーレクインと言えばシンデレラストーリー、というイメージがあるのですが、ハーレクイン小説の“王道ストーリー”ってありますか?

小林:そうですね……まず大前提として、すべての話がハッピーエンドです。ストーリーは基本的に、ゴージャスなヒーローと健気なヒロインが出会い、一見乗り越えられないようなものすごい障壁が立ちはだかるんですが、なんだかんだあって乗り越え、永遠の愛を誓うという構成ですね。

 

――ヒーローはゴージャス、というのは絶対なのでしょうか。

小林:絶対ですね。ヒーローは大富豪で成功者というのは人気作品の大前提です。お金持ちかつ尊大で圧倒的なオーラを放っているヒーローというのが、やっぱり読者の方には根強く人気です。
今のドラマや漫画では“草食系”ヒーローもウケると思うんですが、ハーレクインの場合、ヒーローが優男だと売れないんですよ。このヒーロー、まともないい人なのにな……と思うことも結構あります(笑)。

 

――ヒーローの国籍はさまざまなんですよね。

小林:そうですね。定番はヨーロッパの王族の「ロイヤル」、中東の首長の「シーク」、ギリシャとかイタリア系の「ラテン」です。

シークなどは特徴的で、アラブ系なのでハーレム文化があるんですよ。ヒーローは女性を選び放題なんですが、その中で次第に唯一の愛に目覚めていく……という展開ですね。あと、シークものの場合は大抵ヒロインがさらわれるところから恋が始まる、というのが王道です。

 

――すごい世界……! 他にも、王道の展開ってありますか?

小林:便宜結婚させられる、というのは多いですね。ヒーローもヒロインにも恋愛感情はなく、お互いのメリットのために形式的に結婚するのだけど、だんだんと本物の愛に目覚めていく……という。人気ドラマの「逃げ恥」も、似たストーリーでしたよね!

 

ヒーローの正体が実は○○だったトンデモ作品

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――歴史の長いレーベルなので、やはり人気のある設定やストーリーにも、38年の間で変化はあったのでしょうか。

小林:そうですね、人気のテーマの変遷はあったと思います。ここ10年近く、ずっと読者の方に人気なのが“シークレットベビー”ものです。

 

――シークレットベビー、とは……?

小林:ヒーローとヒロインが恋に落ちて子どもを授かるんですが、なんらかの事情でヒーローはそれを知らされないまま、ふたりは離ればなれになります。そのままヒロインは健気にひとりで子どもを産み育て、子どもが大きくなった頃にヒーローと再会する……というストーリー。ヒーローが子どもと再会して、驚いて「そっくりだ!」という(笑)。

 

――ふたりだけのロマンスよりも、子どもがいるストーリーが人気というのはちょっと意外です。

小林:以前はふたりだけのロマンスが人気だったんですよ。10年くらい前までは「シーク」全盛期で、やっぱりヒーローに連れ去られるみたいな日常感がよかったんだと思うのですが。もしかすると、読者の方の年齢層も少しずつ上がってきているので、子どもに癒やしを求める方が増えたのかもしれないですね。

――ハーレクインのメインの読者層は、どのような人たちなんでしょうか。

小林:もっとも話題になったのは日本での創刊当初なので、その頃からの読者さんも多いですが、メインは40~50代の女性ですね。当時はラブシーンのあるロマンス小説が非常に少なかったので、それで話題を集めた、というのもあると思います。

 

――なるほど。ちなみに、編集長としてこれまでハーレクイン・シリーズを読んできた中で、忘れられない設定やストーリーの作品ってありましたか?

小林:そうですね……日本ではあまり数多く刊行してはいないのですが、バンパイアや超能力といった超自然の要素を入れ込んだ「パラノーマル」というジャンルがありまして、その中で『海のレクイエム』という作品を出したことはあります。それは、ヒーローが実はアザラシという衝撃作だったのですが、コミック化もされていますよ(笑)。

 

ハーレクインビギナーにおすすめの5冊

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お話を聞いているうちに、徐々にハーレクインが気になってたまらなくなってきたP+D MAGAZINE編集部。そこで、ハーレクイン作品を初めて読む人でも楽しめる、ハーレクインビギナー向けのおすすめの5冊を教えてもらいました。
編集部が実際に“初めて”ハーレクイン作品を読んでみたレビューを、小林さんのコメントとともにお楽しみください!

 

1.リン・グレアム『君主との冷たい蜜月』

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王道度…★★★★★
ロマンチック度…★★★
ヒーローの魅力度…★★★★★

ハーレクイン初体験のP+D編集部員でも、「これぞハーレクイン!」と直感的に理解できたほど王道の1冊。父親を探してダーリアという国を訪れたヒロインが、突如身柄を拘束されて王宮へ連れて行かれ、そこで国王に「妻になれ」と命じられる……という、直球の“シークもの”です。

ポイントは、さらわれた立場のヒロインですら思わず最初からうっとりしてしまうほどの、ヒーローのセクシーさ。ヒーロー・ラシャドの外見は、作品の中でこんな風に描写されています。

百九十センチの長身は、並はずれて背が高かった祖父譲りだ。黒髪や暗い金色の目や完璧な骨格は、中東きっての美女と謳われた母から受け継いだ。端整で神秘的な容貌はソーシャルメディアで称賛されているが、ラシャド自身はその事実にひどく閉口していた。

SNSで騒がれるほど端整な外見の持ち主なのに、若い頃に結婚で失敗して以来、女性に期待も興味も持てなくなってしまったラシャド。そんな彼が、一途で素直なヒロイン・ポリーからの愛を受けて変わっていくさまには、ついドキドキさせられてしまうこと間違いなしです。

 
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 小林さん

「正直に言うと、ハーレクインって1冊だけ読んでも、その世界観に入り込めないかもしれないなと思うんです。突然王様や君主が出てくるのって、やっぱり日常的ではないので……(笑)。だからこそ、まずは人気作家の作品を1冊手にとってみて、そこから少しずつお気に入りを見つけていってほしいなと。

リン・グレアムは一番人気の作家なので、最初の1冊にはおすすめですね。彼女の作品は王道でありながらも、とにかく話がよく転がって面白いんですよ。毎回そうきたか! と思わされるような、こちらの期待をいい意味でいつも裏切ってくれる作家です」

 

2.モーリーン・チャイルド『ボスとの熱い一夜の奇跡』

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王道度…★★
ロマンチック度…★★
禁断の関係度…★★★★

2冊目は、刺激的&情熱的なシリーズ、「ディザイア」からの1冊です。
傲慢で自信家な大富豪・マックは、秘書のアンディを長年、まるでオフィスの備品のように雑に扱い続けています。実はそんなマックに恋をしているアンディですが、休みもなく働かされることに業を煮やし、退職を申し出ることに。すると、マックは「きみを手放すつもりはない」とアンディを熱く説得。ふたりはそのまま、体を重ねることになります……。

アンディ、退職しようとしてたのにどうして抱かれているの? と一瞬ツッコみたくはなりますが、マックの自信たっぷりな“オレ様”キャラはたしかにセクシー。その夜ふたりの間に子どもが宿る……という急展開も含めて、ページをめくる手が止められなくなる1冊です。

 
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 小林さん

「『ボスとの熱い一夜の奇跡』は、読者の方にも人気の高いボス×秘書ものですね。ボスと言ってももちろん、課長とか直属の上司とかではなく、若くしてトップになったオーナーや社長ですよ。そこはハーレクインですので(笑)。この作品はヒロインが一夜にして子どもを授かるところからお話が展開しますが、なぜかたった一夜の営みで授かってしまう、というのはハーレクインあるあるかもしれません……!」

 

3.ジェニー・ルーカス『十万ドルの純潔』

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王道度…★★★
ロマンチック度…★★★★
ヒーローの健気度…★★★★★

バージンを貫いてきた貧しいヒロイン・レティ。彼女は長年恋していたギリシア人富豪・ダレイオスとある夜、ついに結ばれます。しかし翌朝、彼はレティに「君は10万ドルで売られたんだ」と告げて……!? というストーリー。
最初から互いに強く思い合っているレティとダレイオスが、これでもかというくらいすれ違うもどかしさがポイントです。他の作品のヒーローと比べると、ダレイオスはとても献身的。そんな彼をなかなか信じきれないヒロイン・レティに、「そんなに尽くされてるんだからそろそろ信じてあげて!」と声をかけたくなる1冊です。

 
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 小林さん

「こちらは『新女王』、次世代のリン・グレアムと呼ばれているジェニー・ルーカスの作品ですね。彼女もやはり人気作家なので、展開がコロコロ変わって面白いですし、最初の1冊としても読みやすいと思いますよ。

この作品のヒロインも貧しいウエイトレスですが、ハーレクイン作品では、ヒロインが貧しい家庭で育ち、床磨きやメイドといった仕事に長年従事している……というケースが多いです」

 

4.『愛が輝く聖夜』

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王道度…★★★
ロマンチック度…★★★★★
読みやすい度…★★★★★

『愛が輝く聖夜』は、クリスマスの夜に結ばれる恋人たちを描いた短編作品集です。伯爵とメイドの古風な恋物語から、高級宝石店のCEOとウィンドウデザイナーという今どきのカップルの恋物語まで、さまざまなテイストのお話が楽しめるのが魅力。

編集部のおすすめは、高給宝石店を舞台に繰り広げられるラブストーリー「ダイヤモンド・クリスマス」。大富豪のCEOが、ヒロインが制作を手がけたショーウィンドウの前でした豪華すぎるプロポーズには、ついうっとりしてしまう女性も多いはず……!

 
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 小林さん

「オムニバス作品集は、長編作品を読むよりも手っとり早くハーレクインの世界に触れてみたい、という方におすすめです。こちらは、不定期でサマーシーズンやクリスマスに発売されるシーズナルというジャンルなのですが、『愛が輝く聖夜』は2017年のクリスマス版ですね。収録されている作家にも人気の高い人が多く、さくっと読めるので、雰囲気を掴むのにはいいかもしれません」

 

5.『悦楽の園の恋人たち』

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王道度…★
ロマンチック度…★★
部屋でこっそり読みたい度…★★★★★

タイトルの通り、官能的な恋愛模様が楽しめる作品が詰まった短編集です。
他のロマンチックなハーレクイン作品4作を読んだあとに手にとったこともあってか、そのあまりの刺激の強さに、ちょっと驚かされてしまいました。読んでいるところを人に見られると確実に気まずいので、部屋を閉め切ってひとりで楽しむのがよいでしょう。

編集部のおすすめは、メイドが子爵に「歓迎のもてなし」と称してエロティックな関係を迫られる『ご主人様、仰せのままに』。どのくらい過激なのかは、実際に手にとって確認してみてください!

 
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 小林さん

「こちらはもともと電子書籍版のみで出していた、『エロティカ』という実験的なシリーズ。ラブシーン多めの、ちょっと刺激的な作品集です。『悦楽の園の恋人たち』は、メイドと主人のラブストーリーから1800年代のハイチを舞台にした歴史もののストーリーまで、さまざまなテイストの作品が一度に楽しめておすすめです」

 

おわりに

小林さん曰く、ハーレクインは「1冊手に取ってみたらまた1冊……と読みたくなって、だんだんハマって中毒になっていく」のが特徴だそう。たしかに、実際にハーレクイン・ロマンスを読んでみた編集部も、3冊目あたりから手が止まらなくなってきたのを感じました……!

ハーレクインの一番の魅力は、ヒロインがどれだけ辛くみじめな思いをしても、「最後にはきっとハッピーエンドが待っているはず!」と信じられる“安心感”かもしれません。そして、最後に待っているのはヒーローがヒロインにキスをする大団円でも、そこに至るまでのストーリーは実に千差万別

ハーレクイン・ロマンスは、1冊2時間程度で読めるという手軽さもポイントです。気になったらまずはぜひ1冊、書店で手にとってみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2017/12/02)

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