1万円で買うのはどんな本?フォロワー数3万人超の音楽レーベル主催者、青野くんの本屋さんショッピングに密着してみた。

ただ本を読んで終わりにするのではなく、その先にある体験を提供する天狼院書店にやってきた青野くん。「天狼院書店に来たのは初めて」という彼は、本をじっくりと吟味していました。

約1時間ほどかけ、青野くんが選んだ本は計5冊、購入金額は9,990円。「このような機会でなければ買えなかった本も買えました」と満足げな表情から、予算内に収めながらも、上手に買い物できたことがうかがえます。

 

早速、青野くんに、購入した本の紹介をしていただきながら、読書に対する思いを語ってもらいました。

––では、本日購入を決めた本を選んだ理由を1冊ずつお聞かせください。

青野くん:まずは『定本 映画術 ヒッチコック トリュフォー』ですね。

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出典:http://amzn.asia/da9Qxsm

––かなり早い段階で選ばれていましたね。ヒッチコックはもともとお好きなのでしょうか。

青野くん:はい、ヒッチコックは好きで作品も観ています。ヒッチコックといえばホラーやサスペンスといったイメージが強いと思うのですが、僕はひとつひとつの演出がしつこい点を踏まえるとコメディ要素も入っているように感じています。

––確かに『鳥』の中の、無数の鳥が飛ぶシーンや『サイコ』のシャワーシーンなどの演出は「そこまでする?」というくらい過剰ですね。

青野くん:ほかにも「レベッカ」という名前が過剰に出てきたりと、ひとつのものに執着している様子がコントのようだと思います。実際にホラーと笑いは近いのか、撮影現場では大爆笑が起こっているらしいんです。

––撮影しているのはホラー映画なのに、コメディ映画にもなっているというギャップが起きていると。

青野くん:怖いはずのホラー映画こそ笑いが起きていて、その笑いが大きければ大きいほど怖くなる。ヒッチコックのそんな恐怖と笑いがスレスレのところが僕は好きなんです。

––続いて、2冊目はがらりと変わって井上靖の『孔子』を選ばれていますね。

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青野くん:僕は本を勘で買うことも多いんですけれど、この本については単純に孔子が好きで選びました。タイトルもずばり『孔子』ですし。

––孔子のどんなところが好きなのでしょうか。

青野くん:孔子はすごく昔の人ではあるものの、現代にも通ずる言葉を残しているし、政治に絡んだかと思えば追い出されたりしています。それでもカリスマ性があったからこそ弟子がたくさんいたし、名を残しているのは不思議な存在だなと。また、論語は本人が書いているわけではなくて、弟子が聞いた言葉をまとめて書いている本なんですけれど、弟子から孔子へギリギリ悪口なんじゃないかという話も収録されていて(笑)

––その中でも、特に印象に残っているエピソードはありますか。

青野くん:弟子が亡くなって、その父親が「息子のためにあなたの馬車を解体して立派な棺桶を作ってくれ」と孔子に頼む話ですね。

––孔子の一番弟子、顔淵がんえんが亡くなった場面ですね。顔淵の父親にそう頼まれるものの、孔子は断るという。

青野くん:「私のような本来馬車に乗る立場の者が、徒歩で移動するのは失礼にあたる。礼儀を重んじないわけにはいかない」という理由によるものなんですけれど、端的に言えば「たかが弟子のために馬車を壊したくない」ということなのかなって……本当は弟子としては悪口を言いたいんだけど、それを美談ギリギリのラインに踏み止めているというか。

––先ほどお話されていた「ヒッチコックは笑いとホラー、スレスレのところが魅力」にもつながりますね。

青野くん:僕の勝手な捉え方なんですけれど、そこが人間らしくて好きですね。弟子がたくさんいて、名言を残している孔子は、今で言えばアルファツイッタラー(※)なのではないかと(笑)

※Twitterのユーザーのうち、とりわけ多くのフォロワーを持ち、その発言が大きな影響力を持っているユーザーのこと。

––続いて3冊目には何を選びましたか。

青野くん:宮崎駿の『本へのとびらーー岩波少年文庫を語る』です。単純に宮崎駿が大好きというのもあるのですが、僕の本の選び方にもつながってくるなと思って。

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出典:http://amzn.asia/fTemoEF

青野くん:僕は本を買おうとしたとき、「書店に来て気になる本を買う」、「誰かにおすすめしてもらう」のほかにも「好きな人の読んでいる本を調べる」ということが多いんです。

––それでいうと、まさに「宮崎駿の読んでいる本を知るための本」でもありますね。

青野くん:そういう形で好きな人が影響を受けた人、今度は好きな人が影響を与えた人……とつなげていくと、選ぶ本は無限ですよね。本もたくさん読めるし、その本にあった文脈から「この人の言いたいことや伝えたいことは、こういう道筋なんだ」とはっきりしてくる。文脈を知ることによって、さらに宮崎駿のこともわかってくるんじゃないかなと思います。

––続いて、4冊目は平野啓一郎『マチネの終わりに』ですね。

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青野くん:以前から、平野啓一郎が提唱した「分人」という概念が興味深いと思っていました。たとえば、いろいろな人と話しているときに「本当の自分を出せていないな」って思うことってありますよね。この人の提唱している「分人」は、「本当の自分というのは全部であって、どの人に対応しているときの自分も自分」だと。「環境によって自分を構成する部分の割合が変わっているのが本当の自分だと錯覚されている」という考えは腑に落ちるなと思っています。

––「アメトーーク!」の読書芸人の回にて又吉直樹さん、若林正恭さんが紹介して以来、『マチネの終わりに』はどの書店でも大きく取り上げられていますが、「分人」の概念も新しい人間観として多くの人から注目されていますね。

青野くん:「分人」の概念についてまとめた本(『私とは何か 「個人」から「分人」へ』)を読んでいたのですが、小説はあまり読んでいなかったので選びました。

––最後は、今最も話題の1冊ですね。

青野くん:村上春樹の『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』です。

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––もともと村上春樹はお好きだったのでしょうか。

青野くん:かなり好きで、今までの作品もたくさん読んでいます。こうやって本をチョイスするなかで、『騎士団長殺し』を買うのは実は恥ずかしかったんですが(笑)

––熱狂的なファンがいる一方、「ああ、村上春樹ね(笑)」といった反応を示す人も多いですよね。

青野くん:「でも欲しいじゃん!」と思って(笑)。村上春樹は『ノルウェイの森』のイメージが強いからか、インターネットでは「やれやれ(笑)」なんてネタにされがちなんですけれど、好き嫌いは別として文章やストーリーの質は素晴らしい。だからこそ、新刊を読まないわけにはいかないなと。

村上春樹ってすごく不思議な人だと思います。創作をする人というのは、ネガティブなエネルギーを使い、自分の内に秘めたエグさを表現したがる人が多いんですけれど、村上春樹は心身ともに健康だからこそ、エグい部分も書けるのではないかと思います。その辺りに共感しますね。つまり僕は作品だけでなく、村上春樹自身にも興味を持っているというわけです。

(合わせて読みたい:ハルキストが村上春樹風にデートプランを考えたら【文体模写】

 

青野くんが思う、天狼院書店の良い点。


––実際にお買い物をしてみて、天狼院書店にはどんな印象を持ちましたか。

青野くん:今日初めてこちらに来たのですが、タイトルを隠して本を販売していることや、コーナーにある本の選び方など、ひとつひとつの取り組みがおもしろいなと思いました。それも、1冊の本に対し、「こちらの本もおすすめです」というような形で別の本とつなげてくれる選び方をしているのが興味深いですね。こうやって厳選したおすすめを置いてくれているのが、実際に書店員さんにおすすめされている感じで、素敵だなと思いました。

あとはコタツやカフェがあったりと、ゆったり見られるのが押し付けがましくないというか、アパレルのお店にある感じとは逆だなと思いました。

––選んでいるときに「どうですか?」と聞かれるとお店の方の目が気になってしまう、あの感じとは真逆ですよね。

青野くん:本を読む人ってあまりおすすめされたり、ガツガツこられるのが得意ではないと思うので。さりげない感じがいいですよね。

 

きっかけは梶井基次郎? 青野くんの読書遍歴に迫る。

––「松本清張対談記事」でも少しお話しされていましたが、改めて青野くんのこれまでの読書遍歴をお聞かせください。

青野くん:僕は小学生の頃、ほとんど本は読んでいませんでした。しかし、中学生のときに教科書に載っていた梶井基次郎の『檸檬』に衝撃を受けたのがきっかけですね。

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––どんな点が特に衝撃的だったのでしょうか。

青野くん:単純にストーリーもおもしろいですし、映像がすごく目に浮かぶというか。「レモンイエロウの絵具をチューブから絞り出して固めたようなあの単純な色」という表現から、鮮やかな色が伝わりますし、身体の不調をきっかけに厭世的な気持ちだったはずが、檸檬を買ってからはテンションが高揚したあまり、「(檸檬の)この重さをずっと求めていた」と思うような心理描写も興味深い。

––主人公は匂いを嗅いでみたり、ひんやりとした冷たさを楽しんでいたりと、さまざまな感覚による檸檬が描かれていますね。

青野くん:文章のリズムもすごくおもしろいです。そこから本を読むようにはなったものの、当時は文脈をあまり大事にしていなくて。本当におすすめされたものや気になったものを読む感じで。その後は、女流作家の本を中心に読んでいましたね。

––その女流作家のなかでも、具体的にどんな作家の作品を読んでいたのでしょうか。

青野くん:当時から小川洋子の『猫を抱いて象と泳ぐ』という作品が好きで。人形の中に入ってチェスを打ち続ける少年の話なんですけれど、チェスを打ち続けることによって、コミュニケーションをとったり、人の心に残ったりする姿が素敵だと思いました。

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青野くん:そして梶井基次郎が好きで出会った人に坂口安吾を薦められ、そこから太宰治、織田作之助と、無頼派の作家が好きになりました。彼らの書くものはすごく人間的だし素直ですよね。そこから町田康が織田作之助を好きで読んでいたと知って、町田康を読み始めました。さらに町田康と筒井康隆はお互いを高く評価していたと知って、次は筒井康隆を読むようになりました。

(合わせて読みたい:【東京弁とはちゃうねんで?】関西弁と小説の関係を探る。

––梶井基次郎をきっかけに、どんどん作家がつながっていって今に至る。先ほどお話ししていたように、まさに読む本は作家同士をつなげていけば無限に広がるわけですね。

青野くん:そういうふうに、脈があって読んだほうがわかりやすいですし、おもしろいです。

 

「何を読んだらいいのかわからない」あなたへ、青野くんがおすすめする作品と作家。

––最近読んで人におすすめしたくなった作品はありますか。

青野くん:こだまさんの『夫のちんぽが入らない』ですね。シンプルな言葉で印象に残るフレーズを書いているのは、やはり文章がうまいからこそだなと思いました。個人間の問題や社会とのズレによる葛藤が変な行動に走らせてしまったりしますが、世間一般の夫婦とは異なるからこそはみ出してしまった人にも勇気を与えるし、意味があるんじゃないかなと。タイトルのインパクトが大きいですけれど、本当に素晴らしい文学作品です。

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青野くん:また、西村賢太の『寒灯』もおすすめしたい1冊です。こちらはふとしたきっかけで同棲していた元彼女に暴力をふるった数秒後に愛しく思ったりと、主人公のどうしようもなさが描かれています。理性と感情が竜巻のように渦巻いているのがおもしろいと思いました。普通の小説って身近な話になればなるほど大風呂敷を広げたり、遠いテーマと結びつけたりすることが多いのに、『寒灯』は同棲生活という狭いテーマで葛藤していて、それでいておもしろいんですよ。

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––では、「あまり読書をしてこなかったけど、これから読書をしてみたい」という読書初心者に、青野くんがおすすめしたい作品や作者を教えてください。

青野くん:わかりやすいSF作品やジュブナイル小説、さらに最近ではライトノベル(『ビアンカ・オーバースタディ』)も書いている筒井康隆なんてどうでしょうか。いろいろなジャンルを取り扱っているし、ユーモアにあふれた作品も多いので読みやすいのではないかと思います。

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––短編も多く、長さとしても読みやすいかもしれませんね。

青野くん:誰もが知っているであろう『時をかける少女』を書いているかと思えば、文学賞の選考委員をひとりずつ殺していく『大いなる助走』なんてとんでもない作品も書いている。以前には『涼宮ハルヒの消失』を読んだことをきっかけにライトノベルの執筆に挑むなど、80歳を迎えてもなお、おもしろいと思ったジャンルをどんどん書いていく筒井康隆の存在は希望でもありますよね。

おわりに

インターネットで音楽を発信し続けるほか、Twitterでも多くの支持を得ている青野くんは今回、天狼院書店においてさまざまな本と出会いました。「何を読んだらいいのかわからない」とお悩みの方は、青野くんのように好きな人が選んだ本をつないで読んでいくことでも、探し求めていた本に出会えるのではないでしょうか。

そしてときに運命の出会いと言えるような、素敵な本との出会いを今後もみなさんに体験していただけるように、P+D MAGAZINEは記事を充実させていきます。

初出:P+D MAGAZINE(2017/04/06)

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