池上彰・総理の秘密<19>

総理大臣や、党の総裁、閣僚などが、重要な会談をする時に使われる場所と言えば、高級料亭というイメージがあります。それが、時代の変化に伴って、会談の場所が移り変わっている模様。「料亭政治」の悪い印象から脱却しようという試みのようですが、実態はいかに? 池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。

料亭りょうてい政治からホテルの会食へ

野田佳彦のだよしひこ前総理と自民党の谷垣禎一たにがきさだかず前総裁が、2012年(平成24)2月25日、都内のホテルの日本料理店で、こっそり会っていたことが判明して、政界でさわぎになりました。野田総理は、藤村修ふじむらおさむ官房長官と会食すると記者たちには伝えながら、実際には谷垣総裁と会っていたというわけです。

こうした密談は、かつては赤坂あかさかの高級料亭が舞台でした。それが、いまはホテル。時代の変化を感じさせます。会談場所になった日本料理店は、個室がいくつもあるので、密談が可能になったのでしょう。

いまは政治家同士の会談や会食も、高級料亭からホテルのレストランや会員制バーに場所を移しています。「料亭政治」の悪いイメージから脱却だっきゃくしようというわけです。

かつての赤坂の高級料亭での密談は、次のように行なわれていました。

総理がこっそり会いたい相手は、早めに料亭の別室に入って待っています。後から到着した総理は、いったん、記者に事前に発表していた相手と会食しますが、途中で部屋を抜け出し、別室で密談。話が終わると、再び元の部屋に戻り、食事が終わると、そのまま料亭を出ます。料亭の前で待っていた記者たちは、当然のことながら、総理が出てくるのを確認して、その場を立ち去ります。記者たちがいなくなったのを見計みはからって、密談の相手が料亭から出て行くという仕掛しかけでした。

1993年(平成5)、細川ほそかわ連立内閣が発足すると、細川総理は「古い料亭政治から決別する」として、料亭通いはせず、ホテルで打ち合わせや会食をするようになりました。

料亭でもホテルでも内実ないじつは同じですし、高級レストランなら、費用も高いのですが、国民の受ける印象は異なるというわけです。舞台がホテルに移っても、記者たちに知られたくない密談は続いています。

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赤坂の料亭街に並ぶ高級車
赤坂(東京都港区)では夜ごとに政治家の会合が行われ、送迎の高級車の列ができていた。1959年(昭和34)1月の撮影。写真/毎日新聞社

池上彰 プロフイール

いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。

(『池上彰と学ぶ日本の総理19』小学館より)

 

初出:P+D MAGAZINE(2017/04/07)

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