待望の最新刊! 『ひまわりは恋の形』著者・宇山佳佑インタビュー 人間同士の心のつながりが胸に迫る「究極の遠距離恋愛」の物語

「世界で一番きれいで一番遠い、遠距離恋愛」。そこには、ひまわりの花のように希望や明るさを忘れない、主人公とヒロインの姿が。懸命に生き、互いを想い合う……、そんな2人だからこそ乗り越えて行ける、難しい境遇。小説の着想から、創作の背景、読者へのメッセージまで、さまざまなお話を伺いました。

美しい言葉が紡ぎ出す、「生きるということ」と「愛するということ」

――主人公・日向ひなたと、ヒロイン・しずくの、難しい状況に置かれながらも前向きに互いを想う姿に、心を打たれます。物語の着想を得たきっかけは何だったのでしょうか。

宇山佳佑氏(以下、宇山):かなり前から、「眠り」を題材とした物語をいつかは書きたい、と思っていたんです。1年のほとんどを眠り続け、7日間しか起きていられないヒロインですが、そのことに対してどういう思いをもって生きているのか、主人公の日向と、どうやって関係性を築いていくのか。彼らの恋愛が成就するかどうかが重要なのではなくて、「どう生きるか」、に焦点を当てたい、と思って書きました。

――ひと口に「恋愛小説」という括りに収めるのは違う、深い物語ですよね。宇山さんが、読者に伝えたかったのは、どんなことでしょうか。

宇山:僕は基本的に、自分が書く物語に対して、伝えたいことを込めないようにしているんです。小説の受け取り方は読み手次第で変わりますし、人それぞれですよね。どの部分を心に留めていただけるのかは、読んでくださる方に委ねたいというか。押しつけになるようなメッセージは入れないように心がけています。ただ、書く上で全体的なテーマはあって、重要なのは、物語の中に生きる登場人物たちが、どういうものを手に入れて、どういったことを学んで、どうやって生きるのか。そういった姿を描いていきたいな、と思っています。

――「生きるということ」と「人を愛すること」について、深く考えさせられました。

宇山:ありがとうございます。今回の作品で言うと、日向と雫の2人が、物語の中で精一杯生きようとする姿を一番描きたくて。それには、コロナ禍にあって悲しいニュースを耳にすることが増えたことも大きかったと思います。コロナが誰にとっても身近であること、自分が当たり前に生きている「時間」というものが当たり前ではない、ということを僕自身が日々の中で感じて、物語の中心に据えるようになりましたね。限られた時間の中にいる雫が、どういう思いをもって生きているのかを考えて、創っていきました。

――2人の絆が強まっていく様子に、人間同士の心の絆を感じました。日向にも雫にも、ぶれない芯がありますが、キャラクターを描く時に意識していることはどんなことでしょうか。

宇山:作者の都合にならないようにすることです。そこ(物語の中)に生きている彼らは、真剣に悩み、苦しみ、もがいています。その思いにしっかり寄り添って物語を紡ぐことを大切にしていますね。

――キャラクターを形作っていく時は、そのバックグラウンドなどもすべて決めて、執筆されるのですか。

宇山:ストーリーもキャラクターも固めてから書きますね。僕自身、脚本も書いているので、小説でもそういう書き方をしています。ただ、書いていく中で、こっちのほうがいいなとか、登場人物が突発的に問題や悩みに直面することもあったりするので、そういう時は少し前に戻ったりしながら、考えながら、書いていくという感じです。

「待つ」ということ、「待たせる」ということ

――予想しないところで、思わぬ出来事が起きてしまうことがありますが、どんな出来事でも、ただただ悲しみに暮れるだけ、ということはない2人の、「乗り越える力」が凄い、と思いました。その強さはどこから来るのでしょうか。

宇山:自分自身も若い頃を思い出すと、様々なことに悩み苦しんできたなぁと思うんです。誰かに傷つけられたこともあったなと。そんな時、最後に支えてくれたのは、隣にいてくれる人、親や友人だったりしたので、周りの人たちの支えは、大切に描きたいと思って書きましたね。

――なるほど。全体を通して、「待つ」ということについても、考えさせられました。「待っていないで」ということにも勇気は必要で、「待っていてほしい」ということにも、覚悟が必要ですが……。

宇山:そうですね。この物語は、主人公とヒロインのそれぞれの視点で交互に描いているのですが、執筆が進むにつれて、日向と雫が互いを思い合う気持ちが僕の想像を超えて強くなっていったんです。遠距離恋愛って、待つほうも、待たせるほうも辛い。それぞれの悩みや苦しみがある。申し訳なさや、複雑な思いもあるはずですよね。待っててくれとは、なかなか言えない。日向と雫の置かれた境遇はファンタジックではありますが、そこでの葛藤はリアリティを感じ取ってもらえたら嬉しいです。実際に遠距離恋愛をしている人にも、伝わるものがあったらいいな、と思っています。

――まさに、「究極の遠距離恋愛」の2人だけに、「待つ」こと、「待たせる」ことの難しさ、切なさが身に沁みますね。

宇山:距離的に離れているとしても、お互いのことを考えることはできますが、日向と雫では、時間の流れが違います。「眠ってしまう」ということは、どうすることもできないので、そんな境遇にあっても前向きで居られる2人の姿を見ていただきたいですね。

「絆」について

――そんな辛い状況下にあっても、日向は「雫は足かせなんかじゃない。僕の生きる希望だよ」と言いますよね。宇山さんが考える、「絆」というと?

宇山:どんな恋人同士でも、例えば親子でも、長い時間をかけて絆を形成していくものですが、日向と雫の場合は、その絆を形成する時間が人よりも圧倒的に少ない。それが最大の壁であり、乗り越えるべき障害です。二人は限られた時間の中で絆を築けるのか、二人が見つけた絆とはなにか、物語を最後までお読みいただき、日向と雫の「絆」を感じて頂ければ幸いです。

――なるほど。時間の大切さを痛感します。生きることに対して真摯であることの大切さも強く感じました。

宇山:僕は、若い読者の方に対して、「こう生きなさい」と言う気は全くないのですが、今の世の中で若者たちが生きていくのはとても大変だと思うんです。疲れることも、しんどいこともたくさんあるだろうし、僕が若い頃よりも世間は複雑で息苦しい気がする。もし今、読者の中に辛い思いを抱えて暮らしている人がいたとして、この本を読んでいただいて胸の内に抱えたもやっとしたものが晴れてくれるとしたら、書いてよかったなと思いますね。

――最後に、宇山さんが普段、創作する際に心がけていることを教えてください。

宇山:僕の作品は、結構突飛な設定が多いんですけど……、だからこそ、人間の心の動きはリアルに描かなきゃいけないと思っていて。読んでくださる方が、心でわかってくださるような物語にしなくてはならない、できる限り読者とキャラクターの距離が近い、寄り添ってもらえるようにしたい、と考えています。

――言葉が美しいところも、今回の作品でも染み入りました。

宇山:そう言って頂けると嬉しいです。僕はもともと脚本家で、小説を書かせていただけると思っていなかったので、小説家としてはまだまだ未熟です。でもこの物語を通じて、書ける領域が前よりも広がったかな、と思っています。作家として少しだけ、大人になれたかな、という感じです。

――単なる悲恋ではなく、切ないけれど、悲しくない。ラストも最高でした。

宇山:ありがとうございます。最初はひまわりを中心に据えるつもりはなかったのですが、原稿を書いている途中で、全体を包むイメージ=ひまわりでいこう、と思えたんです。誰もが笑顔になれる花、明るい花、希望の花、というひまわりのイメージで作品を包めたのは、良かったと思っています。

<了>

【著者プロフィール】

宇山佳佑(うやま・けいすけ)

1983年生まれ。神奈川県出身。ドラマ『スイッチガール!!』『主に泣いてます』『信長協奏曲』などの脚本を執筆。著書に『ガールズ・ステップ』『桜のような僕の恋人』『今夜、ロマンス劇場で』『君にささやかな奇蹟を』『この恋は世界でいちばん美しい雨』『恋に焦がれたブルー』がある。2022年3月『桜のような僕の恋人』がNetflixで映画化された。

【書籍紹介】


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初出:P+D MAGAZINE(2022/04/11)

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