【第167回芥川賞受賞作】高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』はここがスゴイ!

高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』の受賞が決定した第167回(2022年度上半期)芥川賞。その受賞候補となった5作品の優れている点や読みどころを徹底レビューします!

2022年7月20日に発表された第167回芥川賞。高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』が見事受賞を果たしました。

『おいしいごはんが食べられますように』は、食事をとることを面倒に感じている男や、「みんなで食べるごはんはおいしい」という言説に疑問を覚える女の視点を通じ、“食”をめぐる固定観念や無言の圧力について問い直すような一作です。

受賞発表以前、P+D MAGAZINE編集部では、候補作の受賞予想をする恒例企画を今回も開催しました。シナリオライターの五百蔵容さんをお招きして、『おいしいごはんが食べられますように』を含む芥川賞候補作5作の徹底レビューをおこないました。

果たして、受賞予想は当たっていたのか……? その模様をどうぞお楽しみください!

参加者


五百蔵 容:シナリオライター、サッカー分析家。
3度の飯より物語の構造分析が好き。近著に『サムライブルーの勝利と敗北 サッカーロシアW杯日本代表・全試合戦術完全解析』(星海社新書)。


トヨキ:P+D MAGAZINE編集部。近年の芥川賞受賞作で好きな作品は『首里の馬』(高山羽根子)。

(※対談はリモートでおこなわれました)

目次

1.『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子)

2.『ギフテッド』(鈴木涼美)

3.『家庭用安心坑夫』(小砂川チト)

4.『あくてえ』(山下紘加)

5.『N/A』(年森瑛)

『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4065274095/

トヨキ:まずは『おいしいごはんが食べられますように』から行きましょうか。

“食”を巡る圧力に違和感や嫌悪感を覚える人たちを描く作品ですが、高瀬さんは昨年の芥川賞候補となった『水たまりで息をする』でも、お風呂に入ることを拒否する人物を描いていました。社会的には“当然”とみなされる生理的な欲求に対して疑問を抱いてしまう人々にスポットを当てるという点では前作と同じですが、個人的には、前作のほうがより洗練されていたように感じます。

五百蔵:僕もそう思います。特に、二谷と押尾というふたりの人物を語り手に置いていることがあまり活きていないんじゃないかと感じました。食に対しての嫌悪感の抱き方はそれぞれ異なるのだけれど、それぞれの視点から描かれる感覚の違いが物語を動かす大きな変化につながっているかというと、あまりそうではないように思える。

トヨキ:二谷がこれまで受け続けてきた“男の子なんだからいっぱい食べないと”という抑圧や、押尾が感じる“おいしいって人と共有し合うのが苦手”という感覚そのものには、共感する読者も多いと思うんです。けれど、ふたりがお互いの違和感を吐露していく中で、そういった自分の感情を過不足なく伝え合ってしまっているから、おっしゃる通り視点をふたつに分けている意味があまり感じられないと思いました。

それから、二谷と押尾、芦川という主要なキャラクターの描き方がかなりステレオタイプに見える点も気になりました。

五百蔵:そうですね。ステレオタイプな人物をあえて出し、“典型”を繰り返し描くことで、僕たちがなぜその“典型”をよしとしてしまうのか、ということを考えさせるようなやり方ももちろんありですし、あるいはステレオタイプに思える人物でも、プロットが進むにつれてその人ならではの存在感や世界の見方を提示してくれるならいいと思うんです。でも本作では、「こういう人ならたしかにそう思うだろうな」という確認作業のようにそれぞれの視点のストーリーが進んでいくのみで、最後まであまり発展性が感じられなかったというのが正直なところです。

おそらく、その発展性のなさが延々続いていく中で、最後にようやく二谷が“容赦なくかわいい”というひとつの判断を下すのがこの作品の肝だとは思うんですね。二谷は物事の核心にできるだけ触れないよう、その周りをぐるぐる回り続けることで生きている人物として描かれているけれど、最後に一瞬だけその価値に直接触れるような瞬間が訪れる。つまり、芦川が作る丁寧なごはんは二谷にとってすごく腹立たしいものなのだけど、芦川をかわいいと感じていること自体は事実だ、という核心に一瞬だけ迫っている。

トヨキ:なるほど。ただ、個人的にはその“かわいい”も、直接ではないにせよ二谷はずっと言い続けていたのでは? と思ってしまいます。“かわいい”とあえて言わないことで、むしろずっと“かわいい”と言い続けてるよね、と……。

五百蔵:それは本当にそうなんですよ、結局ずっと言ってる(笑)。彼が最後にようやく核心に切り込んだことで、物語として何か新しい景色が開けるという書き方にはなっていないんですよね。二谷が芦川に対して相反する感情を抱いていることは、プロットを通じて早い段階から伝わってきてしまうから、最後に“かわいい”とあえて言ったところで、言葉が違う意味を伴って聞こえてくるようなところまでは達していない。その点はすこし残念だったなと思います。

トヨキ:そうですね……。けれどさっき話題に上がったような、暗黙のうちにルール化している“食”への信仰や圧力を、それに苦しんでいる人の視点から鮮やかに描いたという点では大きな意義のある作品だと感じました。

『ギフテッド』(鈴木涼美)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4163915729/

トヨキ:2作目は『ギフテッド』です。キャバクラ嬢や元新聞記者としての経歴を活かし、社会学的な視点を盛り込んだエッセイなどで支持を集める鈴木涼美さんの中編小説デビュー作ですが、五百蔵さんはどのように読まれましたか?

五百蔵:構成としてはかなりシンプルで読みやすい分、狙いが成功すれば非常にガツンとくるだろうな、という形式を選んでいると思うのですが、それが完全にうまく機能しているとは言い難いかなと感じました。

この作品も『おいしいごはんが食べられますように』と同じく、ひとつのテーマが変奏のように重ねられていき、最後にまたそのテーマを象徴するような言葉があらためて繰り返されるという構成だと思うのですが、作者の構想がディテールにうまく反映されすぎているが故に、読み手からするとどこか既視感のある言葉で物語が終わってしまっている。書き手に筆力がないわけではないんです。むしろ筆力は非常に高いと思うのですが、それ故に結末の刺激が弱く感じられてしまうのがもったいないなと思いました。

トヨキ:ディテールが巧みだからこそ読み手の想像力が喚起され、結果的に、作者が最終的に辿りつこうとしている地点に読み手のほうが早く到達してしまう、ということでしょうか。

五百蔵:ええ、そう思います。夜の歓楽街の雰囲気であるとか、刹那的に生きざるをえない女性たちの心情などが抜群のリアリティをもって書かれている、非常に力強い作品だと思うのですが、唯一その点が惜しいなと。

トヨキ:たしかに、物語の始めからうっすらと漂っていた匂いが持続し、そのままのイメージで幕が下りたという印象です。五百蔵さんがおっしゃる通り、夜の街を生きる人たちの生活や一筋縄ではいかない母娘関係といったディテールの書き込みには作者の力量を感じた一方で、それはもうすでに読んだ気がする、と思わされるような描写が散見されるのはすこし気になりました。情報やイメージの統御がより巧みになされていたら、もっと爆発力のあるラストになったかもしれないですね。

五百蔵:そうですね。鈴木さんは本作が初の中編ということですが、力のある書き手だと感じたので、次作にも期待したいです。

『家庭用安心坑夫』(小砂川チト)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4065288576/

トヨキ:続いて『家庭用安心坑夫』です。私は今回の候補作の中だと、この作品が一番好きでした。純粋に、最初から最後までとにかくおもしろかったです。

五百蔵:僕もこの作品が一番おもしろいと感じました。日本橋三越の大理石の柱の上に、実家の洋服箪笥に貼ってあるはずのけろけろけろっぴのシールがなぜかある……という冒頭の時点で、これは大変だ、相当おもしろくなるぞと期待が膨らみに膨らんでしまって。なぜ貼られたかという理由まで書き切ってくれたら最高なんだけどなと思いながら読み進め、結果的にそれは叶わなかったんですが、おもしろかったからこっちでもいいや、と満足でした(笑)。

トヨキ:たしかに、冒頭のけろっぴの惹きが強すぎるんですよね(笑)。主人公の小波が父親だと思っている坑夫の人形、“ツトム”にまつわる描写もよかったです。古びたテーマパークに置かれているマネキンや蝋人形ってたしかに妙に印象に残ると思うんです。ドールハウスをずっと見ていたくなるような感覚で、その中のひとりに強く感情移入したり、その人との暮らしを想像してしまう気持ちもたしかにわかるなあと。

五百蔵:この人形は座る用の姿勢で作られているから立たせるのは無理なんだとか、そういうことに小波が気づいていく過程もいいんですよね(笑)。なんとなく実感を伴って伝わってくる。

トヨキ:壁に沿わせてみたら意外とちょうどいい、みたいな描写にも思わず笑ってしまいました。とにかく、今回の候補作の中でも飛び抜けて細部の描写がうまいと思います。どこにも名乗っていないはずの自分の名前が三越の店内アナウンスで呼び出されているのを聞き恐怖を覚えた小波が駆け出すという最初のシーンにしても、定型句に頼っているところがまったくない。オリジナリティのある描写を通じて、事態の異様さと彼女の切迫感が不気味に伝わってくるのがすごくいいなと……。混乱している小波の視点を通じて場所や時間がさまざまに入り乱れていくわけですが、シーンとシーンのつなぎ方もなめらかだと思いました。

五百蔵:今回の候補作には、社会の中で女性が置かれている立場や、その立場ゆえに生まれる問題について真正面から描こうとする作品が多かったと思います。もちろんそういったストロングスタイルの作品も魅力的なのですが、『家庭用安心坑夫』はその点、テーマの上に特殊なシチュエーションを何枚か重ね、心理の動きを幻想小説の形で書くというスタイルを選んでいる。そのことによってテーマの核心から遠ざかってしまうのではなく、むしろテーマが際立っているのが素晴らしいと思いました。

特に終盤のほうの、小波が実家を訪れるシーン。彼女が終始見ている幻覚の中に時折、彼女が実際に直面していたであろう問題のディテールが差し込まれるところなんて、本当にはっとさせられました。小波にはきちんと現実が見えている側面もあって、リアルと幻覚を行ったり来たりしているんですよね。小波本人には父親の介護をしていたことがまったく思い出せず、そのことで葛藤なんてしていないかのように描かれるのだけれど、思い出せないということ自体が彼女の強い葛藤を意味している、と読み手には伝わってくる。

トヨキ:本当にそうですね。実家で投薬カレンダーを目にして父親のことを思い出しそうになり、寒気を覚えた小波が、真夏にも関わらず“この家は真冬なんだ”と自分に言い聞かすシーンなどは、彼女の葛藤が幻想を巧みに絡めながら書かれていて素晴らしいと思いました。

五百蔵:最後の終わり方も、前に挙げたふたつの作品では繰り返しに留まってしまっているテーマが、きちんともう一段深まるような形で書かれているんですよね。今回の候補作の中では、完成度が一番高い作品だと思います。

トヨキ:小砂川さんはこの作品がデビュー作とのことなのですが、ベテランの書き手だと思いながら読んでいたのでとても驚かされました。今後もどんな作品を書いてくれるのか、いまからすごく楽しみです。

『あくてえ』(山下紘加)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4309030637/

トヨキ:続いて『あくてえ』。これなどはまさに、さきほど五百蔵さんがおっしゃったストロングスタイルで書かれていると思うのですが、作者が書きたいことがはっきりとしていて、小説の強度が最初から最後まで一貫して保たれていることに好感を覚えました。

五百蔵:僕も、『家庭用安心坑夫』を除けば、小説としての強度はこの作品が一番高いのではないかと思います。何より、主人公が祖母を呼ぶときの「ばばあ」という言葉の強さがすごい。言葉のインパクトが大きすぎるから、ひょっとしたら途中で力尽きてしまうのではないか……と薄々思いながら読んでいたんですが、最後までこの強度をうまく持たせられているんですよね。

トヨキ:たしかに、最後まで読み続けても「ばばあ」という表現に出会うたび新鮮にドキッとしました。

五百蔵:そうなんですよ。この作品も、最初から最後までずっと同じひとつのテーマについて書いているわけですが、主人公の苛立ちや苦しさが手を替え品を替え表現されているから、ただの繰り返しという印象にはならない。最後の終わり方からも、ばばあが死ぬまできっとこの生活が続くのだろうと想像させられるけれど、同じような日々が続いていくということ自体が介護や家族の問題のまさに根幹にあるものだと思うので、それを正面から描き切っているのが素晴らしいと思います。

僕自身にもこの「ばばあ」に近い家族がいたこともあって、主人公を取り巻く状況や、彼女が抱える苛立ちは非常によくわかりました。ただただきつい日々が続くけれど、悪くないと思えるようなできごとがほんのときどき起きることによって、続いていく日々にももしかしたらなんらかの意味があるのかもしれない、と思えるという。納得はいかないけれど、そう思うしかないんですよね。

トヨキ:なるほど。状況が変わらない、ということ自体が強烈なリアリティになっているわけですね……。繰り返される彼女のあくてえ(悪態)そのものが奇妙なグルーヴ感につながっていて、だんだんとロックソングを聴いているような気分になってくる作品でした。

五百蔵:たしかに。10分くらいあって、同じようなリフも多いはずなのに、なぜか飽きずに聴ける曲みたいですね(笑)。

トヨキ:個人的にすこし気になったのは、一人称で書かれている主人公の視野のぐらつきです。一人称と三人称が混ざったような描写が散見されて、主人公の主観ではそこはあまり問題じゃないのでは? という疑問が湧いてきてしまうシーンがいくつかありました。

五百蔵:僕もそれは気になりました。この作品においては、主人公が小説を書いているという設定によって視野の広さにも多少説明がつくとは思うのですが、一人称をまだうまく制御しきれていない作品が、芥川賞候補作にはときどき見られますね。そこが見えているのならこの行動はとらないのでは? という疑問を掬い取らないままで物語が進んでいくと、余計な違和感につながってしまう。

トヨキ:そうですね。人称の切り分けが洗練されていくとよりよいのではないかと感じました。ただ、今回の候補作の中で一番勢いに乗って飽きずに読めた作品ではありました。

『N/A』(年森瑛)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4163915621/

トヨキ:最後は『N/A』です。五百蔵さんはどのように読まれましたか?

五百蔵:自分を勝手にカテゴライズしてしまう内部的/外部的な要因に対し、小さな抵抗をし続けていたいという主人公の気持ちが非常によく書けていると感じました。物語の中盤までは、“丸っこくてやさしい言葉”に嫌悪感を抱く主人公のまどかの態度がややステレオタイプにも思えたのですが、終盤の展開がとてもよかった。他人のことをかけがえのない存在として承認したりされたりするのではなく、「まどかにとって何者でもない」元恋人・うみちゃんの親切に触れることで、まどかはようやくカテゴライズされない自分、唯一無二の自分にたどり着けるんですよね。

トヨキ:そうですね。他者と唯一無二の関係を結びたいというまどかの気持ちはとてもわかりますし、借り物のような耳あたりのいい言葉を嫌悪するまどかの態度にも、個人的には共感できる部分がありました。その上で、まどかはすでに他者からの“丸っこくてやさしい言葉”に大いに救われている部分もあるのだけれど、それに気づいていない。終盤、まどかが“配慮”のある言葉抜きでは友達に何も言えなくなってしまい、途方に暮れるところなどは、まどかの焦りと戸惑いが実感を伴って伝わってくる素晴らしいシーンでした。とにかく構成が巧みですよね。

五百蔵:強いて言うなら、その巧みさがやや作り込みすぎという印象にもつながるのは難点かなと思います。けれど、短さもあって物語の中であまり余計なことをしようとしていない分、一人称視点で描かれるまどかの主観にぶれがなく、骨太な作品になっているとも感じます。

トヨキ:会話のディテールもいいんですよね。女子校にいるからといって、性別という概念から完璧に逃れられるわけではないという苦しさをまどかは自覚していながらも、実はまどかが友人たちと3人でくだらない話をしているときは、そういったカテゴライズから逃れられる境地に意図せず到達しているようにも感じました。

五百蔵:「うんちとちんちんって名前からして面白くてズルくない?」とか、本当にくだらない会話なのだけど、共感してしまいますよね(笑)。くだらなくてなんの意味もないやりとりを通じて、コミュニティの中に暗黙のうちに存在する空気やルールみたいなものを軽やかに横断してしまっている。

トヨキ:ラインの語尾がいつもびっくりマークだったせいで“びっくりマン”呼ばわりされている元彼なんかも、すごくいいですよね(笑)。

私はこの作品がとても好きなので、いわゆるポリティカル・コレクトネスに対する批判や皮肉というような表層的な部分で読みが止まってしまう選考委員がいないことを祈りたいです……。“配慮”への違和感を表明した上で、それを部分的には認めつつ、新しい形の関係性を人と築く方法を模索する主人公を描いた作品だと思うので。

五百蔵:そうですね。近年芥川賞の候補になっているような作品は、すでにそういったフェーズに達しているものが多いですよね。つまり、世の中のある状況に対して真正面から殴りかかることでそれを否定し、乗り越えようとするのではなく、状況に適応しつつ、より多くの人が抑圧を感じない社会を実現することを目的に据えている。

抑圧というものはひとつの大きな力に見えるけれど、実際にはさまざまな要因が絡まりあったカオスなものなんですよね。だからこそ、ひとつの主義主張をもってそのカオスを支配したり否定しようとしてもそれはあまり有効ではなく、そのカオスになんとか適応しながらも、より楽に幸せに生きる道を考えるほうがよっぽど実現可能性がある。適応しつつ新しい可能性を模索する、というのは実際には立派な抵抗なのだけれど、ある世代以上の人々にとっては、それが“順応”に見えてしまうという側面はあるかもしれませんね。

トヨキ:本当におっしゃる通りだと思います。『N/A』はわかりやすい二項対立に飲まれることを慎重に避けつつ書かれている作品だと思うので、この誠実さが評価されてほしいなと感じます。

総評

トヨキ:ここまで候補作5作品のレビューをしてきましたが、五百蔵さんはずばり今回、どの作品が芥川賞を受賞すると予想しますか?

五百蔵:さきほども話題に上がったように、今回は社会の中で女性が置かれている立場や問題に焦点を当て、それを真正面から書き切るというスタイルの作品が多かったように思います。

個人的に推したいのは『家庭用安心坑夫』なのですが、受賞の可能性で考えると、介護と家族の問題を力強く書き切った『あくてえ』に軍配が上がるかなと。『N/A』もいま扱われるべきテーマがとても丁寧に掬い上げられている作品なので、誤読さえなければ、次点は『N/A』かなと思います。

トヨキ:私も『あくてえ』の骨太さには惹かれますし、いま賞をとるべき作品という観点では『N/A』がやはり強いかなと思うのですが、幻想小説としての圧倒的な完成度の高さに魅力を感じたので、『家庭用安心坑夫』が受賞すると予想したいです。

今回の芥川賞の受賞作発表は7/20。いまから発表の日が楽しみです!

初出:P+D MAGAZINE(2022/07/15)

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