【全部解けたら文学賞マニア】芥川賞にまつわるクイズ

1935年から現代まで続く由緒ある文学賞、「芥川賞」。純文学作品を対象としたこの賞は、80年以上に渡ってさまざまなスター作家を輩出してきました。今回は、歴代の「芥川賞」にまつわる受賞者やトリビア、珍エピソードなどをクイズにしてみました。あなたは何問正解できるでしょうか?

年に2回発表され、純文学の新人賞としてはもっとも注目度の高い文学賞である芥川龍之介賞(芥川賞)。1935年から80年以上にわたって続くこの賞は、かつては吉行淳之介や遠藤周作、大江健三郎といった文豪に贈られ、現在では綿矢りさや村田沙耶香、又吉直樹といった新世代のスターらも多く輩出しています。

今回は、そんな芥川賞にまつわる常識やトリビア、珍エピソードを、4択のクイズにしてみました。芥川賞にはあまり詳しくないという方も、文学賞にまつわる知識には自信があるという方も、全5問の芥川賞クイズにチャレンジしてみてください!

【第1問】(難易度:★☆☆)

【問題】

2022年7月に選考会がおこなわれた、最新(※2022年10月時点)の芥川賞。この、第167回芥川賞を見事受賞したのは、何というタイトルの作品?

A.『おいしいごはんが食べられますように』
B.『ブラックボックス』
C.『水たまりで息をする』
D.『夜に星を放つ』

 

【答え】
A.『おいしいごはんが食べられますように』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4065274095

【解説】
第167回芥川賞を受賞したのは、『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子)。本作は、“食”をめぐる世間の言説に違和感を覚えている会社員2名の視点から、普段見過ごされてしまいがちな、社会の中の圧力を描いた作品です。

Cの『水たまりで息をする』も同様に高瀬隼子の短編小説。本作は、水を突如嫌がるようになった夫とその妻の生活を描き、第165回芥川賞の候補となりました。Bの『ブラックボックス』(砂川文次)は第166回芥川賞作品、Dの『夜に星を放つ』(窪美澄)は第167回直木賞作品です。


【第2問】(難易度:★☆☆)

【問題】

『共喰い』で2011年下半期(第146回)芥川賞を受賞した際、受賞会見で「(賞を)もらっといてやる」と発言したことでも話題を呼んだ、『さなぎ』『ひよこ太陽』などの代表作がある作家は誰?

A.西村賢太
B.石原慎太郎
C.田中慎弥
D.円城塔

 

【答え】
C.田中慎弥

【解説】
『共喰い』で第146回芥川賞を受賞した田中慎弥は、『図書準備室』『切れた鎖』などの作品で、過去4回、5年間にわたり芥川賞候補に挙がり続けた作家です。

田中は2012年に芥川賞を手にした際、受賞会見にて、“都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる”と発言したことでも話題を呼びました。この発言は、芥川賞の選考委員で当時の東京都知事でもあった石原慎太郎への皮肉ともとれ、終始どこか不機嫌そうな田中の受賞会見での態度は「田中節」と呼ばれて注目を集めました。田中本人は、後日のインタビューの中で「普段考えていることを言っただけ」と述べています。


【第3問】(難易度:★☆☆)

【問題】

1955年に発表され、第34回芥川賞を受賞した作品で、裕福でアンモラルな若者たちの姿を描き、当時のファッションやライフスタイルにも大きな影響を与えた、石原慎太郎の代表作といえば?

A.『異形の者』
B.『太陽の季節』
C.『灰色の教室』
D.『なんとなく、クリスタル』

 

【答え】
B.『太陽の季節』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4101119015

【解説】
1955年に発表された『太陽の季節』は、そのセンセーショナルな内容から話題を呼び、社会現象にもなった石原の代表作です。煙草やギャンブル、ヨット遊びに明け暮れ、自分たちの恋人を売り買いする登場人物たちの姿を描いた本作は、終戦からわずか10年で発表された作品にも関わらず、新しい時代の到来を感じさせるものでした。

性器で障子を突き破るといった本作の過激な描写は必ずしもすべての選考委員の支持を得ず、佐藤春夫など、石原の受賞に強く反対する者もいました。しかし、石原の髪型を真似た「慎太郎カット」が10代の間で流行したり、『太陽の季節』に登場するような裕福で自由な若者たちを「太陽族」と呼ぶ流れが広まるなど、本作は間違いなく、ひとつの時代を象徴する小説でもありました。


【第4問】(難易度:★★☆)

【問題】

『赤い砂を蹴る』で第163回芥川賞候補となった、劇作家の石原ねん。石原の祖父は第1回芥川賞の候補にもなったとある文豪ですが、これはいったい誰?

A.太宰治
B.川端康成
C.三島由紀夫
D.谷崎潤一郎

 

【答え】
A.太宰治

【解説】
デビュー小説『赤い砂を蹴る』で第163回芥川賞候補となった石原燃は、演劇ユニット「あかり座」の主催で、『父を葬る』などの代表作を持つ劇作家。石原は、文豪・太宰治の孫です。

太宰治は、芥川賞を熱望していた作家としてもよく知られています。1935年に発表された第1回芥川賞の受賞作は『蒼氓』(石川達三)でしたが、太宰の『逆行』も候補作として選ばれていました。選考委員のひとりであった川端康成は、太宰の受賞がふさわしくない理由を“作者目下の生活に厭な雲あり”と述べ、これが太宰の逆鱗に触れたのです。太宰はのちに、雑誌『文藝通信』で、川端康成に宛てたこのような文章を発表しました。

“小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。刺す。そうも思った。大悪党だと思った。”

川端は当時、薬物依存に陥っていた太宰を見かねてその生活を批判し、さらには生活に影響を受けているという理由で作品を批判したのですが、理不尽にも太宰の恨みを買ってしまったようです。太宰はその後、芥川賞を受賞することはありませんでした。


【第5問】(難易度:★★★)

【問題】

第46回(1961年上半期)の芥川賞の選考をめぐっては、前代未聞とも言える珍事が起きています。いったい、どのような事件が起きたでしょう?

A.芥川賞と直木賞の受賞者を反対に発表してしまった
B.候補作5作品中、3作品が芥川賞に選ばれた
C.芥川賞の落選者に、間違えて受賞の連絡をしてしまった
D.選考委員が3名欠席し、選考会が振替になった

 

【答え】
C.芥川賞の落選者に、間違えて受賞の連絡をしてしまった

【解説】
第46回芥川賞では、落選してしまった候補者のひとり・吉村昭に文藝春秋社の編集者が間違えて受賞の連絡をしてしまい、本来は受賞していない吉村がぬか喜びをしてしまうという珍事が起こりました。吉村は連絡を受け、車に乗り込んで記者会見場に駆けつけたのですが、実際に受賞したのは宇能鴻一郎『鯨神』、吉村への連絡は誤報だったと聞かされます。吉村の『透明標本』は、惜しくも受賞を逃してしまったのでした。

非常に多作で、生涯のうちに数多くの文学賞を受賞した吉村ですが、その後、ついに芥川賞を受賞することはありませんでした。


おわりに

芥川賞にまつわるクイズ、あなたは何問正解できましたか? 話題作をめぐる問題や、受賞会見での印象的な発言に関する問題などは、すぐに答えが思い浮かんだ方が多かったのではないでしょうか。全問正解できたという方は、毎回、芥川賞の発表を楽しみにしている文学賞マニアなのでは?

芥川賞は同日発表の直木賞と並び、日本の文学賞の中でもっとも注目を集める賞と言えます。今回、クイズ内でご紹介したトリビアも知った上で芥川賞を見てみると、よりいっそう受賞予想や作品を読み解くのが楽しくなるかもしれません。

(参考文献:
・鵜飼哲夫『芥川賞の謎を解く』
・菊池良『タイム・スリップ芥川賞 「文学って、なんのため?」と思う人のための日本文学入門』)

初出:P+D MAGAZINE(2022/10/20)

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