【著者インタビュー】山添聖子『歌集 じゃんけんできめる』/親子3人の日常のきらめきやときめきが溢れる

小学6年生の姉、小学3年生の弟、そして母。3人が3人とも短歌を詠み、全員が朝日新聞紙上の「朝日歌壇」の常連入賞者という山添家の、全430首を収録したデビュー歌集!

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

瑞々しくも鋭い眼差しで日常が鮮やかに立ち上がる「朝日歌壇」常連の小学生姉弟と母のデビュー歌集

歌集 じゃんけんできめる

小学館
1700円+税
装丁/名久井直子 装画/布川愛子

山添聖子

●やまぞえ・せいこ 1979年奈良県生まれ。結婚を機に滋賀へ転居。2012年に初めて詠んだ短歌を朝日歌壇に投稿、見事入選し、今では長女・葵さんや長男・聡介君共々、朝日歌壇の常連に。「入選の秘訣ですか…、これは朝日歌壇のイベントで聞いたのですが、(1)楷書で書く、(2)選者の方は週に何千枚もハガキに目を通されるので、せめて裏返す手間が省けるよう、歌と名前を同じ面に大きく書くよう心掛けています」。現在は奈良市在住。160㌢、A型。

母目線での気づきでも歌に詠む時はニュートラルな自分に立ち返ります

 奈良市在住の山添家では、母・聖子さんと小学6年生の葵さん、そして3年生の聡介君の3人が3人とも、朝日新聞紙上の「朝日歌壇」(毎週日曜掲載)の常連入選者として知られる。
 毎週約二千首以上の中から、4人の選者がそれぞれ入選10首を選ぶ狭き門。だが葵さんは目下110首中75首、聡介君は46首のうち36首が入選と、「高打率」だ。
 聖子さんは10年前、2歳になった娘の何気ない仕草を〈タンポポの綿毛で練習したおかげ二歳のろうそくふぅーっと一息〉と初めての短歌に詠み、見事入選。
「実家も朝日新聞をとっていたので、歌壇に載ったら親も喜ぶかなと。完全なビギナーズラックでした」
 その背中を見てか、二児のうち姉は5歳、弟は6歳から作歌を始め、親子3人、歌と共にある日常のきらめきやときめきが、本書『歌集 じゃんけんできめる』には溢れている。

 この母と姉と弟の足かけ10年に亘る成長の記録では、
〈弟は最初にグーを出すんだよだいたいパーを出すと勝てます〉と詠む当時11歳の姉に対し、〈じゃんけんできめるのぼくはきらいですだいたいお姉ちゃんがかつから〉と弟8歳が幼い意地を見せるなど、三者三様の全430首を作者別に収録。
「今はこの本が出たことに子らは2人とも高揚しているのか、毎週のようにやる気満々で投稿していますが、また新学期が始まったら3か月とか全く詠まないときもあったりします。短歌は自分の気持ちを表すツールの1つで、絶えず詠まなければいけないものでもないんでしょうね。
 私自身は、昔から読書が大好きで、桜井市の実家から少し歩けば万葉集の歌碑があったり、“紅梅匂”など十二ひとえのかさね色目の名前にうっとりしながら国語便覧を延々読んでいるような子供時代でしたが、まさか自分が歌を詠むとは思っていませんでした。それこそ娘が2歳の時、『今日な、葵がタンポポの綿毛でな……』と夫に報告した瞬間、『あ、リズムがいい。これ、そのまま短歌になるな』と思ったのが、全ての始まりでした」
 題材もほとんどは日常だ。
「もちろん虚構や非日常を詠む方もいらっしゃいますが、私は思いつくタイミングが生活の中なんです。例えば息子と公園へ行って、鯉に麩をあげていたら、池中の鯉が寄ってきて、『この熱狂、何かに似てるな。そうだ、新興宗教の教祖様や』とか。それを携帯にメモして〈新しい教祖のように迎えられ麩をちぎる子に鯉のざわめく〉と後で短歌に整えるような詠み方です。
 日常での気づきは母目線でも、それを歌にする時は一度“自分自身”に立ち返っているかもしれません。特に故郷を離れ、娘も小さかった頃は話し相手も少なく、でもその合間合間に集めた言葉で歌を作る時間だけは、自分をニュートラルに見つめられました。
 負の感情も、『あ、これ、歌になるかも』とか『このつらさ、何やったっけ』と昔経験した何かに喩えると、俄然面白くなって、自分の遠くに置けるんですよね。そのおかげでつらさのループに堕ちずに済んだり、ずいぶん助けられました」

気持ちを表出することで救われる

 特に最愛の祖母をうしなった16年前後、〈祖母もまた道を譲られたのだろう救急車の過ぎゆくを待つ〉、〈この水は涙になる水 病棟の自販機で買うミネラルウォーター〉、〈悲しみは深爪に似て日に幾度触れては痛む失ひしもの〉等々、聖子さんの歌は輪郭がより尖鋭になる。
 その様子を〈おつきさまみたいにママがやせたのはおばあちゃんがもういないから〉と当時6歳の葵さんは詠み、亡き祖母の人柄ごと継がれていく頼もしさを思う。
「そうならいいんですけど……。幸い今はまだ“母=いいもの”だと思われているらしくて。例えば私が『ごめんね、疲れたから5分だけ本を読ませて』と言うと、どうやら本を読む時間は母にはご褒美らしい、つまり“本=いいもの”なんだという理解になり、今では彼らも大の本好きです。
 短歌も同じように、私がはがきで歌を出している姿を見て『何してるの』と興味津々で聞いてきた葵に、57577で31字にして、あとは自由、と教えたら、その場で指を折って詠み始めたんです。本人達は“だいたい31文字で楽しかったことを詠めば新聞に載って祖父が電話してきてくれる”ぐらいの自由さと気軽さなんです。特に聡介は夏休みの1行日記みたいに事実をそのまま述べる系の歌が多いのですが、時々、〈ふうせんが九つとんでいきましたひきざんはいつもちょっとかなしい〉などドキッとする歌があるんです。葵は歌の推敲時に書棚から歳時記を出してきて言葉を探すなど、詩心があるなあと思います」
〈弟が父に短歌を教えてた「ならったかん字はぜんぶつかいや」〉と娘に詠われた夫も含めて、星や庭の花々を愛で、指折り数えては歌にする一家の姿が歌集からは目に浮かぶよう。
「子らは歌のたねになりそうなことがあるとすぐに文字を数えて投稿しています。私自身、祖母のお通夜で夜伽をしながらも無意識に指を折って数えていたときには我ながら驚きもしましたが、そうやって少しずつ気持ちを表出させることが日々の自分を助けてくれていることもあるのかもしれません」
 短歌を詠むことは、もう1つの目、、、、、、を持つこと。そして1つ1つは個人的な〈記憶を記録〉した歌が、読み手の立場の違いを超えて普遍的に人々を繋ぎうるだけに、今後の継続が一層楽しみだ。

●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光

(週刊ポスト 2022年9.16/23号より)

初出:P+D MAGAZINE(2022/09/17)

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