【著者インタビュー】橘 玲『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論 』

なぜ、朝日新聞はいわゆる「ネトウヨ」の人たちから「反日」の代表として叩かれ、嫌われるのか? 朝日新聞社内の書店で長らくランキング1位を占めていたという、リベラル進化論!

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

どうして安倍一強なんだ! やっぱり朝日新聞が好き! リベラル野党出でよ!・・・・と思っている人は必読の「言ってはいけない」論考

『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』
朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論 書影
朝日新書 875円

報道や世論調査、心理学の実験結果などを参照し、なぜ世界中で「リベラル」的価値観が共有されながら、西欧でも日本でも「右傾化」が進むのか、「アイデンティティー」をキーワードにわかりやすく解き明かしていく。著者自身は「朝日ぎらい」でも「好き」でもないとのことだが、「リベラルな新聞社には『正規/非正規』などという身分差別はなく、とうのむかしに同一労働同一賃金を実現しているはずだ」といった持論(イヤミ?)が「あとがき」で展開されている。

橘 玲
●TACHIBANA AKIRA 1959年生まれ。作家。早稲田大学第一文学部卒業。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。 ’06年『永遠の旅行者』が山本周五郎賞候補となる。『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』が30万部を超すベストセラーに。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』が「新書大賞2017」に選ばれる。「プライバシーも財産」とのことで、写真・本名などは公表していないが、近著『’80s ある80年代の物語』で自身の編集者時代をふり返った。

若者にとって、安倍政権こそがリベラル。これが朝日新聞にとっての不都合な真実

刺激的なタイトルだが朝日批判でも、朝日擁護でもない。
「なんでこんなに朝日新聞が嫌われるのか、ずっと興味があったんです。リベラルと言いながら、実はリベラルじゃないのが1つ。もう1つの理由は、日本人であることを唯一のアイデンティティーと考えるいわゆる『ネトウヨ』の人たちから、彼らの善悪二元論で『反日』の代表として叩かれている。そんなことを考えながら、だけどよくある朝日批判の本や雑誌と書店で並べられたくはないなと思っていたら、朝日新聞出版から依頼があって。『この本は朝日から出せばいいんじゃないか』と」
企画もすんなり通り、朝日新聞社内の書店では長らくランキングの1位を占めていたそうだ。
朝日新聞を嫌い、安倍政権を支持する状況を指して、若年層の「右傾化」といわれる。だが、橘さんは「それは違う」と言う。
「若い人にとって、『変えるな』しか言わない共産党は『保守』で、改革を掲げる自民や維新が『リベラル』なんです。世論調査の結果にも出ていますが、この『保守』と『リベラル』の逆転は40代と50代の間で起きていて、別に今の若者が右傾化したわけじゃない。朝日新聞のようなリベラルにとっていちばんの『不都合な真実』で、メディアのダブルスタンダードは読者に見透かされています」
グローバリズムの中で、世界全体はリベラル化、知識社会化する流れにもあり、そこから脱落する人は増える一方だ。「中流の崩壊」は、アメリカでトランプ大統領が誕生したことでもわかるように、「保守化=右傾化」を招く。
本では、知能や遺伝と政治的態度との相関にも踏み込む。
「言語的な知能って自分を説明できる能力なんです。子供の頃から自分のしたことを説明できないと、世界が不安や脅威を与えるものに思えて保守的な気質になる。一方で、言語的能力は高くなくても仕事ができる人はいます。でも知識社会ではすべてを論理化しマニュアル化するから、彼らの仕事は人件費の安い国へ流れ、さらにはAIロボットに居場所を奪われつつある。世界中で今起こっているのはこういうことなんです」

素顔を知りたくて SEVEN’S Question

Q1 最近読んで面白かった本は?
『総務部長はトランスジェンダー』。

Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
スティーブン・ピンカー(アメリカの進化心理学者)。

Q3 好きなテレビ番組は?
ほとんど見ないけど、サッカーは見ます。地元FC東京と、静岡出身なのでジュビロ磐田を応援しています。

Q4 購読している新聞は?
朝日と日経。書評欄は読みます。社説は読まない。特に朝日は見出しを読むと「ああ、そうですか」って中身がわかるから。

Q5 最近気になる出来事は?
事務所のあるマンションの同じ階に出張デリヘルの部屋ができたらしいこと。いろんな女の子が出入りしてるけど、中には風俗嬢には見えない専門学校生みたいな普通の子もいる。夜、事務所に一人でいる時に間違えてピンポンを鳴らす客がいたりして、「その先の〇号室だと思いますよ」と案内することもあり、徐々にシステムを理解すると同時に、すごく気になっています。

Q6 最近ハマっていることは?
あんまり何かにハマらないんですよ。収集癖もないし、たぶん欲望の閾値が低いんじゃないかと思います。

Q7 体調維持のためにしていることは?
昔、ぎっくり腰をやりまして。整体の先生のところに行ったら、そんな生活していたら歩けなくなりますよって脅されて、とにかく歩くようになりました。その先生が言うには、たくさんお客さんが来るけど、営業マンは絶対、来ないそう。ジムもゴルフも行くだけムダ、とにかく歩け、階段があったら昇れ、という教えを守り、今のところ腰痛は再発していません。

●取材・構成/佐久間文子

(女性セブン 2018年10.11号より)

初出:P+D MAGAZINE(2018/10/27)

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