星新一のショートショートから伏線の回収法を学ぼう!

ショートショートと呼ばれるコンパクトな短編作品を通じて、見事なオチで読者を唸らせ続けてきた星新一。その伏線回収の技術をクイズ形式で学びます!

読者に強烈な「読後感」を与える作品に共通するのは、表現ひとつひとつの巧みさでもありますが、なによりもまず始まりから終わりまでの構成に作者の緻密な計算が行き届いているということ。最近では、人気の高い漫画やアニメなどで、「伏線がすごい」というような評価を耳にするようなこともありますよね。

作品のなかに張り巡らされた伏線が見事であるということは、同時にその仕掛けを回収する「オチ」が秀逸であるということだとも言えます。そして、文学における伏線回収の名手といえば、なんと言っても星新一。原稿用紙20枚にも満たない形式の小説、「ショートショート」で鮮やかにオチをつける天才でした。

星新一が生涯で発表したショートショートは1000編以上にも及んでいます。そのジャンルは未来を予見したSFやディストピア小説(※)、いつまでも変わらない人間のあさましさを描いた寓話など、多岐にわたっています。今回はその1000編もの作品の中から、特にオチが秀逸な作品を3択のクイズ形式でご紹介します。

※「ディストピア小説」……一般に、SF的な空想未来のなかで人間性が窮地に追い込まれる、反ユートピア的な世界を描いた小説のことを指す。

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Q1: 青年の恋が招いた悲劇。「ボッコちゃん」(1958)

あらすじ

とあるバーのマスターが発明したロボットのボッコちゃんは、見た目は人間と区別できないほど精巧に作られていました。しかしマスターはボッコちゃんの知能にまで手がまわらず、できることといえば簡単な相槌を打つこと、酒を飲むことだけ。マスターはボッコちゃんが飲んだ酒を回収し、客にそのまま出すこともありました。そんなボッコちゃんでしたが、客は酔っているために彼女がロボットだとはちっとも気づきません。それどころか、美人で大酒呑みのボッコちゃんは、バーの名物となるのでした。

ボッコちゃん目当ての客のなかには、彼女を好きになってしまった青年もいました。支払いに困った彼は、家の金を持ち出そうとしたところを父親に見つかります。

 

問題:父親に叱られ「今夜限りだぞ」と金を渡された青年がボッコちゃんに会いにやってきた晩、バーに悲劇が……その悲劇とは、一体何でしょう。

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解答:C.

青年が毒薬を混ぜた酒をボッコちゃんに飲ませたまま店を去り、ボッコちゃんから回収した酒を客とマスターが飲んだ結果、全員が毒で死亡。

人の声が止み、誰からも話しかけられないボッコちゃんだけが静かに佇んでいるラストシーンの不気味さが何とも言えません。ボッコちゃんに毒を飲ませた青年と、回収した酒を皆に振る舞ったマスター、業の深い人間それぞれの行動が招いた悲劇と、感情をもたないロボットとの残酷なコントラストに戦慄させられます。


 

□Q2: どうしてだろう?眠れない……。「不眠症」(1964)

あらすじ

ちょっとした事故で頭を打って以来、眠れなくなってしまったケイ氏。やがて彼は眠ろうとするのを諦め、普段働いている会社の夜警として働くことに。1日中働くようになったケイ氏は貯金の額が増えていく一方で、より強い不眠症に苦しみます。

問題:ケイ氏は不眠症を治すため、今まで貯えた金額を投げ打って新薬を試します。そんなケイ氏に突きつけられた衝撃の事実とは……?

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解答:A.

ケイ氏は事故によって眠れなくなったのではなく、事故以来ずっと眠り続けていたという夢オチ。そんなケイ氏を眠りから覚ましたのは、超高価な新薬であり、彼はこれから当分の間眠らずに働いて治療費を払わなければならないことを知り、愕然とするのでした。

冒頭の「事故で頭を負傷した」という記述から、眠れないのは事故の影響のせいだと読者全員に信じ込ませておきながら、その予想を一気にひっくり返すというまさかの結末。一般的に「夢オチ」といえば質の悪いオチのつけ方とみなされますが、「不眠症が夢だった」とは読み手の盲点をつく見事なアイデアです。「騙して悪いが、仕事なんでな」という星新一の高笑いが聞こえてきそうですね。


 

Q3: これが星新一の描くミステリー!「入会」(1976)

あらすじ

十分な財産を有した老婦人の元にある日、1人の青年が訪れます。満たされてはいるが退屈な日々を暮らしていた老婦人に対し、「このままだとボケてしまう」という注意からある会合への入会を勧める青年。興味にかられて入会した老婦人は後日、ある電話番号を伝えられ、電話相手と長話をするよう指示を受けます。

なんてことのない指示だと思いきや、実はその行動で老婦人は間接的に殺人に関与していたのでした。その会合の狙いとは、会員たちによる小さな行動を積み重ねることによって大きな悲劇に発展させるというもの。

問題:恐ろしい会合に加わってしまったと震える老婦人は、あることに気が付きます。そのあることとは……?

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解答:A.

老婦人は会合について考えを巡らせることで退屈しないどころか、ぼけ防止に役立つと気付きます。それだけでなく、電話が鳴る度にまた何か簡単な指示が来ないだろうか、と期待する自分もいるのでした。

退屈を持て余す老婦人が素性を明かさない青年に対して言う、「ちょっとミステリーじみていて、面白いわね」という言葉通り、「入会」はミステリー的なトーンを持った作品です。自分の知らないところで、顔を合わせたこともない会員たちが結果的に大きな犯罪に関与してしまうというからくりは、老婦人だけでなく読者も想像できない恐怖を描いており、SFのイメージが強い星新一の作品のなかでも異彩を放っています。


 

Q4: ショートショートならではのテンポ感。「ポケットの妖精」(1976)

あらすじ

ある日、真面目ではあるが冴えない青年のもとに妖精が現れます。「恋の女神の娘」だという妖精の勧めるまま、妖精を服のポケットに入れて出かけた青年は、突如として女性からモテるように。そんな良い気分で豪遊していたのもつかの間、貯金が底を尽きかけます。

金策のため知り合いに貸していた金を返してもらおうとしては断られ、金融業者から金を借りようとしてはひったくりに遭ってしまうなど、青年に舞い込むのは不運ばかり。妖精ともども夜逃げした青年がその後出会うのは、お金に縁の無い女性たちでした。

 

問題:青年は恋人を作るチャンスに恵まれている一方で、金銭面で損ばかりするのは何故でしょうか。

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解答:B.

そんな状況を嘆く青年に妖精は首をかしげてこう言います。「実はあたしの父、貧乏神なの……」

星作品によく見られる「冴えない主人公のもとにチャンスが舞い込む」という作品ではありますが、「ポケットの妖精」は落語のような痛快さを持っています。起承転結がコンパクトにまとまっている点も、ショートショートならではの魅力です。


 

Q5: タイトルがじわじわと恐怖を生む。「おーい でてこーい」(1958)

あらすじ

台風により、小さな村の社が崖くずれで流されてしまいます。その跡に残されていたのは、直径1メートルほどの不思議な穴でした。「おーい でてこーい」と叫んだり、石ころを投げ入れても何も反応が無い穴は多くの人の注目を集めます。

やがて人々がその穴に、原子炉のカス、不要になった機密書類、さらには死体など、処理に困ったものをどんどん投げ込んでいくようになっても、いっぱいになる気配は見えません。穴のおかげで以前よりも海や空が綺麗になり、都会には新しいビルが作られていくようになります。

 

問題:ある日、建設中のビルの上で一休みしていた作業員は不思議な出来事に遭遇します。その不思議な出来事とは一体何でしょう。

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解答:C.

作業員は空から降ってきた「おーい でてこーい」という声を耳にしますが、続いて降ってきた石ころには気がつきませんでした。どうやら、都会の住民たちが穴に放りこんできた様々なものが時間を超えて降りかかってきているようです。

なんと、「おーい でてこーい」のオチは、今でこそライトノベルやアニメで定番になりつつある「ループもの」。冒頭部分を作品の最後で再び繰り返すことで、人物たちの行動が逃れられない因果の□環でつながっていることを予感させるのです。
一巡目は都合の悪いものを処理でき、街が発展していく良いことばかりの世界でしたが、この後はそのツケを払わなければいけないであろう世界が待っていると予想されます。「発展の代償」という、21世紀を生きる我々にとっても身につまされるテーマを描いた作品と言えるでしょう。


 

おわりに

星新一のショートショートは、老若男女を問わず今も読み継がれています。長さに制約のある作品の中に伏線を張り巡らせながら「オチ」への期待感をあおるという星新一のお家芸とも言える作風は、現代にも通用するエンターテインメントなのですね。

皆さんも、星新一のオチの構成術を参考に、ブログやSNSに投稿する文章を書いてみてはいかが?

「これは一本取られた!」そんな反応が返ってくるかもしれませんよ!

 

 

初出:P+D MAGAZINE(2016/05/22)

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