【傑作マンガ10選】文学を原作・題材にした人気作品たち。

6. 懐かしかったあの頃と、今だからこそ見えてくる世界観

銀河鉄道の夜(ますむらひろし)

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おそらく誰もが知っているであろう宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の世界観が、猫を主人公に表現されている作品です。作者のますむらひろしは宮澤賢治とおなじ東北出身の漫画家。賢治にとっての「イーハトーブ」のような世界を、「アタゴオル」という理想郷に描いたアタゴオルシリーズでも有名です。2001年には、宮沢賢治学会よりイーハトーブ賞を与えられています。

そんなますむらの描く「銀河鉄道の夜」は、繊細な絵柄から、どこかノスタルジックな雰囲気のなかへと読者を誘い込みます。素朴な言葉遣いの奥底に、ゆたかなイメージの広がりを備え持った宮沢賢治のメルヘン世界を、原作への最大の敬意をもとにビジュアライズした作品といえるでしょう。

天才・宮沢賢治の想像力を、タイムレスなイメージへとよみがえらせたこの漫画。思わず童心にかえってしまう一方で、生と死、友人との別れなど、子どもの頃には分からなかった感情に胸を打たれるのではないでしょうか。

 

 

7. 視覚化不可能とまで言われたあの怪作を漫画化。美しい絵柄に惚れ惚れ?

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出典:http://www.amazon.co.jp/dp/B009727ZLE

 

江戸川乱歩の作品の中でも特に異彩を放つ作品、「パノラマ島綺譚」の魅力を余すところなくコミカライズできたのは、漫画界で唯一無二の存在である丸尾末広だからこそでしょう。レトロな浪漫感ただよう絵柄に、これでもかというぐらいのエロ・グロを詰め込んだその画風をたとえるならば、「おしゃれでキッチュな地獄絵図」。先述したますむらひろしが宮沢賢治の敬虔な信徒だとすれば、丸尾末広は江戸川乱歩の悪夢的な生まれ変わりといってもいいでしょう。

なかでも、1人の男が思い描く理想郷、パノラマ島の精緻な描写のなかに盛り込まれる、ユートピアと悪夢とを行き来するような、「パラノイア(偏執狂)」といっても過言ではない要素がとにかく凄まじいです。一部から「原作越え」との呼び声が高いのも納得の作品です。

 

8. 面妖怪奇な異能バトル!あの忍法帖シリーズのコミカライズ版。

バジリスク〜甲賀忍法帖〜(せがわまさき)

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奇想天外な伝奇小説や時代小説の名手、山田風太郎の『甲賀忍法帖』を原作とした作品。徳川家康の命によって、伊賀と甲賀の二大宗家が生き残りをかけた忍法バトルを繰り広げるという原作の設定そのままに、漫画ならではのテンポのよさで死屍累々の大殺劇を描いています。

特筆すべきは肉感的な女性描写と、「ややグロ」な奇術の数々。「これぞ山田風太郎ワールド!」と原作ファンも太鼓判を押したという傑作です。

 

9. 日本民俗学の嚆矢となった著作を、水木しげるの驚異の筆致で漫画化。

水木しげるの遠野物語(水木しげる)

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柳田國男といえば、日本の民俗学研究の第一人者。そんな柳田が岩手県遠野町に伝わる民話・伝承を編纂したのが、『遠野物語』です。天狗や河童、座敷童など、現代日本人にも馴染みの深い妖怪が勢ぞろいするこの著作を、他でもない妖怪漫画の第一人者、水木しげるが漫画化しました。精緻に描きこまれた背景に、デフォルメされた親しみやすい妖怪たち‥‥‥「ゲゲゲの鬼太郎(墓場の鬼太郎)」などで知られる水木しげるの本領発揮ともいえる一作です。

さらには、水木しげる本人が狂言回しとして登場し、柳田國男の足跡をたどっていくという作品の仕掛けもまた、漫画という表現を縦横無尽に取り入れた、「水木流民俗学」の方法といえるでしょう。そんな、民俗学にどっぷりと根を下ろした水木しげるの創作の源泉を知りたい!という方は、『水木しげるの泉鏡花伝』(ビックコミックススペシャル)、『猫楠ー南方熊楠の生涯』(角川文庫ソフィア)もあわせて読んでみてはいかがでしょうか。文明開化の明治から、戦後高度成長期の昭和へとたしかに受け継がれた「民間伝承」の魂が垣間見られるはずです。

 

10. 太宰治のイメージをガラリと変えるかもしれない、学園ミステリー。

“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)(原作:野村美月、絵:高坂りと)

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元天才美少女作家の井上心葉と本のページをちぎって食べるほど文学を愛してやまない、自称”文学少女”、遠子先輩が文学作品を題材とした事件を解決していく学園ミステリー小説シリーズ「文学少女」シリーズのコミカライズ作品です。

高校2年生の井上心葉が、ひょんなことから出会ってしまった遠子先輩に、文芸部にむりやり入部させられ、様々な事件に巻き込まれていきます。こんな「ラノベの王道」的なストーリー展開を軸に、文学作品へのオマージュが随所に盛り込まれていくのです。

この「死にたがりの道化」は太宰治の「人間失格」もモチーフとしており、数々のエピソードを通じて、太宰治自身のキャラクターや、その作品群についても触れています。そのテンポのよい展開から「太宰は暗い」というイメージが一気に変わるかもしれません。

 

まとめ

メディアミックスの盛んな現代。人気アニメのノベライズ版や、人気漫画の映画版など、ひとつの作品が他の表現ジャンルに移植されることは、いまや当たり前のこととなっています。

しかし、近年のライトノベル作品のコミカライズ版は数多くあれど、昭和の文芸作品を題材にした漫画となると、意外なほど数が少ないというのが正直な印象でしょうか。

皆さんもこれを機に、まずは漫画化された作品から、昭和文学の世界をのぞいてみてはいかがですか?

 

初出:P+D MAGAZINE(2016/02/02)

『明治の建築家 伊東忠太オスマン帝国をゆく 』
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』