『異類婚姻譚』

【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY  話題の著者に訊きました!】

本谷有希子さん

YUKIKO MOTOYA

※motoya

1979年生まれ。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、作・演出を手掛ける。’07年『遭難、』で鶴屋南北戯曲賞、’09年『幸せ最高ありがとうマジで!』で岸田國士戯曲賞を受賞。小説でも受賞歴多数。’13年に詩人で作詞家の御徒町凧さんと結婚。昨年10月に女児を出産した。

夫が死ぬのとペットが

死ぬのとどちらが悲しい

かな、って商店街を

歩きながら考える主婦の

ほうが私にはリアル

 

夫婦は何年やっても

わからなくて面白い。

ふとした違和感を

軽みのある筆致で掬い

取った芥川賞受賞作!

『異類婚姻譚』

異類

講談社 1404円

〈ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた〉。結婚してもうすぐ4年、専業主婦のサンちゃんの発見は、他人が家族になる「夫婦」ゆえの不思議なのか。夫への違和感は膨らんで、知らない顔が現れるように―。芥川賞受賞作の他、「書けなかった時期に、トモ子という一人称でやった時だけ書けた」という「トモ子のバウムクーヘン」「藁の夫」など3編を収録。

本谷有希子さんの芥川賞受賞作「異類婚姻譚」は、不思議な変貌を遂げる夫の姿を、専業主婦のサンちゃんの目からとらえた小説である。既婚者である本谷さん自身の夫はこれをどう読んだのだろう。

「夫は、自分のことが書かれているのかと思って読んだら、あまりにも別の人格で肩透かしだったらしく、『もっと真剣に書けば?』って(笑い)。私はほんとうにまじめに書いたので、それをふまじめだと言われるなんてうれしいなと思いました」

前作から2年以上ブランクがあった。書いては捨て書いては捨てしていた時に妊娠がわかる。編集者から「生まれたら、次、いつ書けるかわかりませんよ」と言われスイッチが入り、3週間で第1稿を書き上げた。

「妊娠中にパソコンで目を酷使すると神経質な子供が生まれると聞いて、嘘か本当かわからなかったけど、原稿用紙に書いてみました。パソコンだと、ちゃんと書こうという雑念が入ったのに、原稿用紙はいい意味で自由で、『こんな感じ』と絵を書いたり、『あとで書こう』と5 行ぐらい空けておいたり、行ったり来たりしながら前に進んでいけたんです」

臨月の、いつ破水してもおかしくない状態まで原稿に手を入れていた。候補になるのは4回目だが、前回の又吉直樹・羽田圭介両氏の時の盛り上がりもあって、これまででいちばん周囲の期待を熱く感じたそうだ。

主人公のサンちゃんはおおらかで、夫のただごとでない変化もぜんぶ受け止め動じない。

「社会と無関係な人間になったような鬱屈や実存の不安を抱える主婦、っていうのを私はうまくイメージできない。夫が死ぬのとペットが死ぬのとどちらが悲しいかな、って商店街を歩きながら考える主婦のほうがリアルで、夫の目鼻がどんどん崩れ出す状況になっても『まあいいか』ってのみこんでしまえるサンちゃんの恐ろしさにつながっています」

演劇と小説が表現活動の両輪だったが、劇団の活動を休止、小説1本に絞って書いた作品でもある。

「公演と公演の合間の3か月でずっと書いてきて、一度、その枠を払ってみたいと思ったんです。『やっぱり戻る』って思っても帰る場所はないかもよ、と言われましたが、ちゃんと明言することで私がどういう人間かは伝わるかなと。結果的に退路を断ってしまいました」右手で抱えた赤ちゃんに授乳しながら左手で書く、綱渡りの日々だ。

「誰にも見せられない姿です(笑い)。子供が生まれた、というのは自分の視点が大きく変わるきっかけになりそう。小説で夫がいろんな形に変えられたように、赤ちゃんもいろんな形に変えられてしまうのかな」

 

素顔を知るための

SEVEN’S

Question-2

Q1 最近読んで面白かった本は?

(同時に芥川賞を受賞した)滝口悠生さんの『死んでいない者』。

Q2 1日のスケジュールは?

芥川賞受賞後は、今日は取材、今日はコラム、今日はサインをしに書店へと、毎日、やることが違う慌ただしい日々です。起きる時間も日々違うけど、だいたい午前10時。うちの赤ちゃんは宵っ張りで全然寝てくれない。

Q3 最近、気になる出来事は?

老人ホームで職員が入居者を転落死させた事件。妙にひっかかります。Q1 最近読んで面白かった本は?

Q4 最近、夫婦喧嘩しましたか?

赤ちゃんの世話と仕事で私が大変なとき、麻雀に行く夫に激怒しました。夫の主張は「じゃあ自分が家にいたらその忙しさはなくなるのか」というもので、「アフリカの人がいま飢えてるんだけど、って怒られてるようにしか聞こえない」と言われ、驚きました(笑い)。」

Q5 出産して、心境の変化はありましたか?

まったく母性がわかないか、愛情過多になるかのどちらかだと思っていたので、ちょうどよいぐらいの母性が出て安心しました。毎日、娘がいつ汚れていくか気が気でなく、「ああ、今日も純粋無垢のままでよかった」と心配で泣きそうです。

(取材・文/佐久間文子)

(撮影/田中麻以)

(女性セブン2016年3月17日号より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初出:P+D MAGAZINE(2016/03/17)

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