著者・朝倉かすみにインタビュー!『たそがれどきに見つけたもの』 創作の背景とは?

人生の「秋」を迎えた大人達の、ほろ苦い6編の物語。吉川英治文学新人賞作家の珠玉の短編集、その創作の背景について著者にインタビュー!

【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY 話題の著者に訊きました!】

朝倉かすみさん

KASUMI ASAKURA

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1960年北海道小樽市生まれ。’03年「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞を、’04年「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞し’05年に単行本デビュー。’09年には『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞した。ほかに『夫婦一年生』『乙女の家』『植物たち』など著書多数。

老いは、自分の変化

をとらえやすいし、

じっくり向き合える

のが面白いんです

 

人生の秋を生きる

彼ら彼女らの心を

占めている心配事や

出来事を優しい筆致で

描き出した短編集

『たそがれどきに見つけたもの』

たそがれどきに

講談社 1620円

もう若くもなく、かといって老成もしていなくて惑うことも多々ある―人生80年を四季に分けた時の「秋」。やがて冬の影も見え隠れする40~50代の男女の、決して穏やかばかりではない日常を描いた6編が収録されている。「末成り」は同僚の事務員から「ゼンコ姐さん」と呼ばれる(恋多き)女性の悲しみを、「王子と温泉」はローカルタレントのファンの微妙な心理を描いている。

 

小柄な朝倉さんに、きれいな銀髪がよく似合っている。

「2週間に1度、髪を染めてたのを、去年の3月にやめたんです。なかなか美容院に行けなくて、白髪が目立ってきたので自分で板前さんぐらいみじかーく切っちゃった。染めた茶色と、もとの黒髪と白髪がまじって三毛猫みたいになってたのが、今は白と黒だけに。ワックスはシルバーのを使ってます」

もともと、「おばあさんになりたい欲」があったという。

「デビューも遅かった(2003年、43才のとき)ですし、どうせなら老女作家として認知されたいなあ、って希望があったんですけど、なかなか白くならなくて。髪が白くなっただけで若者が親切にしてくれるの。席譲ってくれるし、なにか聞いても親切に答えてくれる。世の中、捨てたもんじゃないという気になりますよ。時々、自分より年上の人に席を譲られそうになるけど(笑い)」

新しい短編集では、人生の「秋」を迎えつつある、おもに50代男女の日常を描いた。

「私自身、50代ということもあって、去年ぐらいから、主人公がうんと年をとった人か、子供か、しか書きたくなくなっちゃった。子供から大人になるときと違って、老いは時間もかかるし、自分自身の変化をとらえやすいし、じっくり向き合えるのが面白いんですよね」

高校時代の友人と再会して感じる微妙な違和(「たそがれどきに見つけたもの」)や、パート先のコンビニの若い男性に感じる心の揺れ(「ホール・ニュー・ワールド」)。10代、20代のころの感情が不意に呼び戻されてあわててしまう。

「いつまでたっても年相応の中身にならない感じもあって。今まで通ってきた道にあったことは、つらいことも含めてみんな柔らかい思い出になっているけど、時々、何かの拍子にぎゅーっとこみ上げてくる。その距離感は不思議ですよね」

「その日、その夜」では、「作家の孤独死」を取り上げている。

「誰か知り合いが亡くなると、『あの人はこうだった、ああだった』ってみんな言うけど、あんまり、当たってないんじゃないかといつも思うのね。その人がどんな気持ちで亡くなっていったかなんてわからない。私は今、小説を書いていて、作家がどういう生活か、というのはある程度、わかるので、人からどんなにさみしそうに、不幸そうに見えても、結構そうでもない、というところを書いてみたかった」

人生の秋の次には冬がくる。

「寒いのは基本的につらいけど、今度はあったかいものがありがたくなるから(笑い)」

 

素顔を知るための

SEVEN’S

Question―1

Q1 最近読んで面白かった本は?

大森望『50代からのアイドル入門』。

Q2 よく見るテレビ番組は?

『科捜研の女』。昼間、再放送されると必ず見ます。

Q3 最近気になる出来事は?

女子中学生の監禁事件。今年に入ってからはほぼ『週刊文春』の言いなりに、あれに出たものが気になる感じです。

Q4 今、ハマっているものは?

携帯ゲームの『グランブルーファンタジー』。「グラブ」ってますね(笑い)。

Q5 1日のスケジュールは?

早起きのブームが去ったので朝は7時から9時の間に起き、コーヒーかお茶を入れて軽く「グラブル」を。掃除して、その後は仕事です。『科捜研の女』があれば見ながら休憩。買い物に行って、また「グラブル」やって仕事して、夕飯の支度して仕事して、「グラブル」してご飯。合間合間に「グラブル」がはさまって、締め切り明けに「やったー」ってなると、もうずっとやってます。

Q6 2016年の目標に掲げた「できるだけちゃんとする」ってどういうことですか?

朝起きたら顔を洗おう、とか、歯も磨きましょう、とかそういうことをちゃんとやろう、ということです。

(取材・文/佐久間文子)

(撮影/楠聖子)

(女性セブン2016年4月28日号より)

 

 

 

 

初出:P+D MAGAZINE(2016/04/29)

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