『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記 』
【今を読み解くSEVEN’S LIBRARY】話題の著者に訊きました!
星野博美さん
HIROMI HOSHINO
1966年東京都生まれ。’01年『転がる香港に苔は生えない』で大宅壮一ノンフィクション賞、’11年『コンニャク屋漂流記』でいける本大賞、’12年に読売文学賞「随筆・紀行賞」を受賞。『のりたまと煙突』『島へ免許を取りに行く』『戸越銀座でつかまえて』など著書多数。
旅先でも私はいつも
困り果てていて、
「どうしました?」と
誰かが助けてくれるのを
ひたすら待ってます(笑い)
迫害の時代を生きた
400年前の人々に思いを
馳せながら足跡をたどり、
聞こえてきた真実が感動を
呼ぶ傑作ノンフィクション
『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記 』
文藝春秋 2106円
今から400年以上前、ヨーロッパに渡った4人の少年たち。そして自分の祖先について調べる中(『コンニャク屋漂流記』)で発見した、千葉県御宿・岩和田での南蛮船の難破。遠い過去の歴史の中に埋もれる彼らに思いを馳せる長い旅が始まった。「今もキリシタンへの興味が終わったわけではなくて、まだまだ旅は続きます」。
四百年前の日本にいたキリシタンの足跡をたどった。すさまじい迫害の歴史でもあり、信仰を持つ人同士のひそかなつながりもまた、星座のように浮かび上がらせる。
壮大なテーマを書くにあたり、星野さんはまずリュートを習い始めた。キリシタン大名がローマに派遣した天正遣欧使節の少年たちが豊臣秀吉の前で披露したとされる古楽器だ。
「この話がどこに行き着くのか全然わからなかったので、とりあえず自分が手をつけられそうなところは音楽かな、と思ったんです」
十六、七世紀の西洋絵画を眺め、大学でキリシタン史を学ぶなど、時間をかけて「外堀」を埋めた上で、長崎やスペインにまで足を運んだ。
「書くとき、助走の時間がすごく必要なんです。苦手な現場は最後の最後に回してスペインに行ったのも連載の最終回。編集者に『ほんっとにそろそろ行ったほうがいいですよ』と言われて行きました(笑い)」
大宅賞を受賞した『転がる香港に苔は生えない』をはじめ、旅する作家の印象が強いが、意外にも「旅は嫌い、取材も嫌い。できればずっと家にいたい」と言う。「全然、ノンフィクションにむいてない」と苦笑しつつ、旅の途中で出会った人に貴重な話を聞いている。
「私は近所のコンビニや本屋でも絶対、人に話しかけられない。旅先でもいつも困り果てています。『困った感』が全身からすごく出ているようで、『どうしました?』と誰かが助けてくれる。ひたすらその誰かを待っています」
宣教師たちの大追放が起きたのが一六一四年。連載していた時期は、ほぼぴったり四百年後にあたっていた。「そろそろ大追放だなとか、そろそろみんな船に乗せられていくなと、状況を想像しやすかった」と話す。暮らしの中で刻一刻、時間の流れを肌で感じ、一人ひとりの運命に思いを馳せた。
宣教師たちの手紙を読んでそれぞれの性格がわかり、徐々に身近に感じられるようになっていったという。牢に入れられた後も彼らの手紙が残っているのは、危険を冒してペンやインクを差し入れた人、それを見て見ぬふりをした牢番がいたからだ。四百年前の史料に丹念にあたりつつ、星野さんは史料の空白も見逃さず、書かれなかった理由にも想像力を働かせる。
「天正遣欧使節が秀吉の前で西洋音楽を演奏したことはこれほど有名なのに、曲名が伝わっていないのはなぜなのか。大殉教を伝える絵や文章が複数あり内容がそれぞれ違うのは、大混乱の現場だったからなのでは。四百年前だと思うと壁にぶち当たってしまうけど、今の自分が取材する感覚で読むと臨場感を持って文章が伝わってくるんです」
素顔を知るためのSEVEN’S Question+1
Q1 最近読んで面白かった本は?
『骸骨の聖母 サンタ・ムエルテ』(加藤薫著)。
Q2 好きなテレビ番組は?
『報道ステーション』。夕飯が遅いので、食事しながら見ています。
Q3 最近気になるニュースは?
シリア情勢。安保法制の行方も気になります。
Q4 大の野球ファンとか?
はい。ホークスひと筋です。
Q5 お酒はよく飲むほう?
あまり外出せず、ひと月に1回ぐらいしか飲みません。そのとき、いっぱい飲むので友達から酒飲みと思われるんですが(笑い)。
Q6 リュートでいちばん好きな曲は?
ナルバエスの『牛飼いを見張れ』。
Q7 1日のスケジュールは?
午前8時半頃起きて猫にご飯をやって薬をのませてから近所のコーヒー屋に行って仕事。午後2時頃戻ってお昼を食べてリュートを弾いたり猫と遊んだり、5時頃またコーヒー屋に。9時半ぐらいに帰宅します。
Q+1 最近イライラしたことは?
こんな好き勝手な生活をしてイライラしたら世間に申し訳ないです。
(取材・文/佐久間文子)
(撮影/三島正)
(女性セブン2015年11月19日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/01/07)