『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った?』は、ポストコロナ社会の不安がゼロになる方法を説いた胸アツ本!
「医療」「介護」「教育」費がタダ。つまり将来の不安がゼロになる方法――“ベーシックサービス”を知っていますか?『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った? ベーシックサービスという革命』では、その方法がやさしく説かれます。財政学が専門の著者は消費税を16%にすれば、不安と不公正に満ちたこの社会を変えられると言うのです。
“貯蓄ゼロでも不安ゼロな社会”は夢ではない
消費税を16%に上げる。
コロナ禍で失業者が増え、倒産する企業や個人商店が増えるなか、こんな提案をすれば袋だたきに遭ってもおかしくないほど、世の中は不安で満ちています。
でも、そうすることで、老後不安や教育格差にあふれる日本が変わるかもしれないのなら、その提案、詳しく知りたいと思いませんか?
提案者である
さらに2020年には、いまNetflixにてサブスク配信中の映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督)出演で、ふたたび注目を浴びています。この映画は政治家小川淳也氏(現 立憲民主党)に大島新監督が17年にわたりカメラを向け続けたドキュメンタリー。井手さんは、2017年の衆院選、小川氏が無所属ではなく希望の党の公認を得て出馬したさいの応援演説のシーンに登場します。覇気のない選挙ポスターの写真をさして「悲壮感あふれる、あの顔はなんですか!」と小川氏を叱咤し、毒舌ながら同志としての熱情あふれるメッセージを放ち、観衆と家族を泣かせるのです。このシーンは119分の上映時間のなかでも大きな印象を残し、観た人からは「(涙腺)決壊」「胸が詰まった」などの声が上がったのでした。
どんな顔をして子どもたちに『社会』を語ればよいのか
井手さんの最新刊『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った? ベーシックサービスという革命』は、2018年の発表からさらに進化させた<ベーシックサービス>についての入門書にして決定版。収束の兆しが見えない、不安に満ちたポストコロナの日本社会を構想します。YouTubeなどで話題のMMT、またベーシックインカムとの違いも明らかにします。
革命のキモは、消費税増税、です。本書によると、医療、介護、教育などのサービスを無償化するのに必要な追加財源は、16%に上げることでまかなえるというのです。
必要な人しかサービスは使いませんから、コストを大幅に減らすことができます。幼稚園がタダになっても、大学がタダになっても、高齢者や大学を卒業した人はこれらのサービスを使いませんよね、だっていりませんから。この強みを生かして、高齢者には介護、子育て世代には大学といったように、それぞれが必要とするサービスを全体にバランスよく配っていけば、低コストで全体を受益者にしていくことができます」(本書より抜粋)
また、なぜ“お金の給付”ではなく“サービス”なのかについても、民主主義や尊厳といった、根源的な社会や人のあり方にまで踏みこんだ理由が述べられます。
ここまで読んで、
「ふーん、たしかにそうなればいいんだけどね」と、冷ややかに感じた人もいるかもしれません。 学校がタダ、病院がタダと言われれば、嬉しさ半分、嘘っぽさ半分です。」(カギカッコ内は本書より抜粋。以下同様)
もしかしたら、あー、東大を出て、大学教授になった“勝ち組”の、机上の空論ね。知的遊戯ってやつね、と思われるかもしれません。しかし、そう思って読み進めると、度肝を抜かれます。
ベーシックサービス理論のベースにあるのは、20年以上にわたる財政社会学者としての研究です。が、その根っこには
「社会のあちこちにある『生きづらさ』」への気づき、そして「このくたびれた社会を放ったらかしにするんだとしたら、いったいなんのために研究者になったのか」
という自問自答、さらには四児の「親として、先に生まれた先輩として、いったいどんな顔をして、どんなふうに子どもたちに『社会』を語ればよいのか」という悩みがつねにありました。病院のお金、子どもの教育費、老後のそなえ、これら何もかもを自己責任(自助努力)だと言われ、勝つためではなく、負けないための競争に明け暮れる社会で、子どもたちに「頑張れ」と言えるのだろうか――と。
四児の父親でもある井手さん。
闇金、借金返済に追われ大学院時代の記憶が・・・・
さらに、ページを読み進めると、3度死にかけたという著者の壮絶な体験に驚かされます。見出しに「僕が助かると家族が不幸になる社会」「お金なんかで人間のあつかいを変えてたまるか!」との激しい言葉が並びますが、著者自身が、弱者と呼ばれるまずしい母子家庭に生まれ、スナックのカウンターが勉強机という環境で育ち、東大に進学後は闇金関係者とかかわり、借金返済に追われ院生時代の記憶がほとんどない……というなかで生きてきました。たまたま不運としかいいようのない状況で生まれた(育った)だけで、不条理なあつかいを社会から受けることへの“怒り”は、著者にとってヒトゴトではありません。まさに“自分事”なのです。
思想は、理論と、現実世界での体験が混ざり合って生まれるもの。だからこそ、<ベーシックサービス>は、胸アツな提言になりえたのでしょう。
自分や子どもの未来を思い、社会について、考えたい/アクションを起こしたい、そうぼんやりと思いながら、なんとなく放置し、日々を目の前のことに忙殺されて生きている。そんな人にこそ耳を傾けてほしいと、著者は個人的な痛みと哀しみをさらけ出すことから本書の執筆をスタートしました。
ぜひ、この静かな、しかし胸アツな闘い(革命)に、あなたも加わってください。
『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った? ベーシックサービスという革命』
井手英策 小学館 定価¥1430(10%税込)
四六判 256ページ
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388819
<ためしよみはこちらから>
https://shogakukan.tameshiyo.me/9784093888196
【著者プロフィール】
井手英策 (いで えいさく)
1972年、福岡県久留米市生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論――財政はだれのために』(岩波書店)、『富山は日本のスウェーデン 変革する保守王国の謎を解く』(集英社)、『欲望の経済を終わらせる』(集英社インターナショナル)、『18歳からの格差論』『いまこそ税と社会保障の話をしよう! 』(いずれも東洋経済新報社)、『ふつうに生きるって何? 小学生の僕が考えたみんなの幸せ』(毎日新聞出版)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年度慶應義塾賞を受賞。
初出:P+D MAGAZINE(2021/06/28)