採れたて本!【海外ミステリ】

採れたて本!【海外ミステリ】

 本で読む、一話完結の警察もの連ドラ。本書『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』(竹書房文庫)の特徴を一言で言い表すなら、こうなる。

 著者の一人であるSF作家、マルカ・オールダーのウェブサイトによれば、ポッドキャストサービスである Serial Box(今は Realm)で、三人の共著者──フラン・ワイルド、ジャクリーン・コヤナギ、カーティス・C・チェンらと共に作り上げていったというのが、本書の成立経緯らしい。登場人物や人物関係、世界観の設定を共有したうえで、一個一個はミステリーのショーケースとして個々の力量を反映させて書くようにした……という具合のようだ。

『九段下駅』では、西暦二〇三三年、南海地震に襲われ、アメリカやASEANの影響下に置かれ分断された日本が描かれる。この近未来の日本を舞台に、刑事・是枝都と、彼女が無理矢理コンビを組まされる平和維持軍のエマ・ヒガシ中尉との活躍を描く、バディ警察小説になっているのがポイントだ。全十話、一話完結式の連作短編集となっていて、リレーのように四人の共著者が一話ずつ書き継いでいくという趣向だ。こうした構造も、様々な脚本家が参加してワンシリーズを作り上げる、連続ドラマの形式を想起させるところである。

 駅のロッカーから特殊な刺青入りの腕が出てきたり、重役がドローンを巻き込んで墜死したり、手足や目を人体改造するのが当然の社会で改造により付けた鉤爪がひとりでに暴走したりするなど、起こる事件も多種多様だ。いわゆるミステリーとしては、推理の比重は少ないながら、これは一級品の犯罪小説である。なぜなら、SFの世界観を生かしつつ事件の真相や動機を解き明かすことによって、この近未来の日本の社会像を抉り出す構造になっているのだから。SF設定の使い方と、前述した犯罪小説性の按配が良いため、筆者は第四話「停電殺人」と第八話「鉤爪の手」が好きなのだが、あとから確認してみると、いずれもジャクリーン・コヤナギによる作だったので驚かされた。共通の設定を使い、テロリズムの展開においては一本鎗を通したリレー小説ながら、設定の生かし方や手つきに作家性は刻印されるのだろう。

 海外作家によるヘンな日本像にげんなりしている人にも、本作は安心だ。九段下や丸の内の土地勘はやたらとしっかりしているし、近未来にもかかわらず隅田公園で花見が開かれる。とはいえ、日米共同でドラマ化するには設定がセンセーショナルすぎるので、これは本で楽しむしかないだろう。シーズン2も本国では発表中とのことで、これも楽しみ。

九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション

『九段下駅  或いはナインス・ステップ・ステーション』
マルカ・オールダー、フラン・ワイルド、ジャクリーン・コヤナギ、カーティス・C・チェン
訳/吉本かな、野上ゆい、工藤澄子、立川由佳
竹書房文庫

〈「STORY BOX」2022年11月号掲載〉

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