採れたて本!【ライトノベル#06】
『僕らは『読み』を間違える』は角川スニーカー文庫の新人賞・第27回スニーカー大賞・銀賞を受賞した水鏡月聖のデビュー作だ。
『走れメロス』『蜘蛛の糸』『はつ恋』といった名作のタイトルが並ぶ目次、帯の「学園ミステリーの新・本命」というコピー。古典文学が題材の学園ミステリといえば、ライトノベルの読者なら、本が好きすぎて物理的に食べてしまう「先輩」をヒロインにした野村美月「〝文学少女〟シリーズ」を思い出す向きも多いと思うが、本書はそうした先行作とは、また違った切り口を備えた作品だ。
「『読み』を間違える」というタイトルどおり、前半で語られるのは読書家の主人公による盛大な「誤読」である。たとえば『走れメロス』にはメロスを亡き者にしようと企んだ真犯人がいたとか、『蜘蛛の糸』におけるお釈迦様の残酷な真意だとか、次々突飛な読解が披露される。ともあれ、そういう読みを許す懐の深さがあればこその古典という面もあるわけで、テストが問うような杓子定規な解釈を離れた、文学の自由さへと若い読み手を誘う作品と言えるかもしれない。
だが頁も半分を過ぎ、物語の視点が変わり始めると、それまで行間に漂っていた不穏な気配の正体とともに、登場人物たちの秘められた関係性が明らかになってくる。再読すると、冒頭の印象からしてまるで違ってくるのだから、なるほど惹句が言う「何度でも読みたくなる」ミステリという言葉に間違いはない。
しかし一方、本書の主題はそうした推理小説的な仕掛けよりも、お互いの真意を誤解……誤読し続ける若者たちのすれ違いであったり、笑顔の裏に隠された痛みであったりという赤裸々な青春模様にあるのではと評者には思えた。それもそのはずで、著者は「自分自身ミステリを書こうと思っていたわけではなかった」と語り「本作が『ミステリ』として扱われたこと」に驚いていると述べている。
作者だけでなく登場人物たちも気持ちは同じだろう。別に誰も意図していないのに、こじれた人間関係がいつの間にか謎になり、いつの間にか被害者と加害者が生まれている。そんなひりつく思春期の痛みを結果として見事に描き出している。だから多分、これはたまたまそうなった、という形でしか書けないタイプの青春ミステリなのだろう。
ライトノベルはその内部に様々なジャンルを内包する小説媒体であるがゆえ、しばしばジャンル分けに迷うようなアマルガムも生まれてくる。本書はまさにそれで、異色作であると同時に、実にライトノベル「らしい」作品だと思う。
『僕らは『読み』を間違える』
水鏡月聖 イラスト=ぽりごん。
角川スニーカー文庫
〈「STORY BOX」2023年2月号掲載〉