採れたて本!【ライトノベル#07】

採れたて本!【ライトノベル】

『ヴァンパイアハンターに優しいギャル』(GA文庫)はGA文庫の新人賞である第14回GA文庫大賞銀賞を受賞した倉田和算のデビュー作だ。タイトルでピンとくる人もいるだろうが、まずはコンテクストの解説から始めさせて頂く。

 ネットには「オタクに優しいギャル」という概念がある。髪を染めて肌を焼き、ハイテンションで特異な日本語を操り、スクールカーストの頂点に立つ……そんな「ギャル」たちは、たいてい「陰キャ」「オタク」と呼ばれる人種とは水と油な存在だ。だが何かのきっかけで優しく接してもらえれば、高い「コミュ力」を持つ彼女たちのこと、案外オタクトークも弾むんじゃないか、という想像……というか妄想? から生まれたシチュエーション、キャラクター類型である。

 一方、ライトノベルの定番ジャンルに「異能バトルもの」がある。私たちの生きる現代には、実は人に仇為す危険な「何か」が潜んでおり、選ばれた者たちが人知れずこれと戦うことで日常は守られている、という世界観のもと、平凡な少年がふとした偶然で戦う美少女と出会うことで始まる物語群だ。

 で、本書であるが、そのふたつの合わせ技だ。「ゆるい」校風で知られる都立高校にある日突然復学してきた、銀髪銀眼、黒革手袋にシルバーアクセの「ヤベー奴」四十七銀華。実は彼女は、吸血鬼と戦うヴァンパイアハンターだった。だがしかし、そんな彼女の正体を知ったのは、「平凡な少年」ではなく「平凡なギャル」の盛黄琉花だったのである。

 かくて定番ジャンルは、「異能バトル時空」と「ギャル時空」という異文化の衝突の場と化す。ギャルの言葉にすると「ヴァンパイアハンター」は「ヴァンハ」になり、異能の源「祓気」は「ギンギン」になる。別に本人はちゃかしているわけではないのだが、だからこそ余計可笑しい。考えてみればライトノベルにはファンタジーやSF、歴史物などの既存ジャンルを、いかに若者の(とくに女性の)話し言葉に「翻訳」するかという試みから発展してきた側面があるわけで、その意味で、これはライトノベルの本来的な面白さなのかもしれない。

 そんな二人のギャップがもたらすコメディを、戦いしか知らず平和に馴染めない銀華が、日常を楽しむエキスパートであるギャルに導かれ、新しい生き方を知っていくという、言わば帰還兵もののテーマに接続し、単なる一発ネタに終わらない奥深さを獲得している点も巧み。

 様々な意味での「ライトノベルらしさ」が一冊のうちにコンパクトに凝縮された快作である。

ヴァンパイアハンターに優しいギャル

『ヴァンパイアハンターに優しいギャル』
倉田和算 イラスト=林 けゐ
GA文庫

〈「STORY BOX」2023年4月号掲載〉

津村記久子さん『水車小屋のネネ』
◎編集者コラム◎ 『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった +かきたし』岸田奈美