採れたて本!【海外ミステリ#20】

採れたて本!【海外ミステリ#20】

 C・J・ボックス『暁の報復』(創元推理文庫)は、「猟区管理官ジョー・ピケット」シリーズの最新刊である。ボックスのデビュー作である『沈黙の森』がシリーズ第一作であり、これは二〇〇一年刊行だが、『暁の報復』は二〇一七年に本国で発表された第十七作である。猟区管理官とは、野生動物の保護・管理を行う職業で、密猟者を逮捕する権限を持つ法執行官だ。ワイオミング州の広大な自然を背景に繰り広げられるジョー・ピケットの冒険譚と、濃密な自然の風物の描写は、長らくシリーズファンを魅了してきた。

 長期シリーズと聞くと尻込みする人もいるだろうが、いつ、どこから入っても面白いように設計されているのが、ジョー・ピケットシリーズの特徴だった。サービス精神旺盛な作者ゆえの工夫だ。しかし、『暁の報復』は少し違う。もちろん、本作から読んでも楽しむことは出来るが、最大限に楽しむには、シリーズの二つ前、第十五作の『嵐の地平』を読んでおくことを推奨する。なぜなら、『暁の報復』とは、『嵐の地平』で蒔かれた因縁の種が開花する物語であるからだ。

 今回の敵は、一年半前にジョーが関わった男、ダラス・ケイツである。ジョーの娘の元恋人である彼は、『嵐の地平』で描かれる事件において、ジョーと対決した相手だった。ダラスは結果的に、家族ともども破滅させられることになり、当然、ジョーのことを深く恨んでいる。ジョーにダラスたちの動きを伝えた知人、ファーカスは行方不明になり、ジョーの家族にも危機が迫る。シリーズ最大級のピンチを、ジョーはいかにして乗り越えるのか?

 長期シリーズだからこそ成し遂げられる、過去の因縁の活かし方。そもそも『嵐の地平』がシリーズでも指折りの傑作だったために、ダラスの復活が嬉しく、憎らしい。憎らしいというのは、このダラスという男と彼の一家が本当に嫌な奴らで、ジョーたちが無事に事態を切り抜けられるかどうか、本当にヤキモキさせられるからだ。

 今回の見所は、己の過去と向かい合わなければいけなくなったジョーの克己の物語であり、ダラスに憎しみをぶつけ、殺して終わらせることがあってはならないという、父として、職業人としての誇りの物語である。中盤、二人が対峙するシーンの緊張感は実に素晴らしく、これまたシリーズ屈指の名場面となっている。

 訳者あとがきによれば、「本国の刊行ペースに少しでも追いつくため」、来年はシリーズ第十八作と第十九作の二冊を創元推理文庫から邦訳刊行することが決定したという。こちらの二作の邦訳も、首を長くして待ちたいと思う。

暁の報復

『暁の報復』
C・J・ボックス 訳/野口百合子
創元推理文庫

評者=阿津川辰海 

田島芽瑠の「読メル幸せ」第76回
椹野道流の英国つれづれ 第34回