採れたて本!【デビュー#41】

採れたて本!【デビュー#41】

 有手窓の初の単著となる『お隣さんの置き配がヤバすぎる』を読みながら、「覚醒するシスターフッド」というフレーズが頭に浮かんだ。

「覚醒するシスターフッド」とは、河出書房新社の季刊小説誌〈文藝〉2020年秋季号の特集タイトル。女性たちの連帯をテーマにしたこの特集は文芸界にセンセーションを巻き起こし、同号はたちまち重版。その後、特集に寄稿された短編を集めて、同じタイトルで単行本化されている。

 その特集と直接の関係はないものの、同じ河出書房新社から刊行された本書は、まさしくシスターフッドの覚醒を描く物語。

 大御所の機嫌を損ねてキャリアを失った漫画家と、夫の抑圧とDVに虐げられる専業主婦──ともに男性によって人生を理不尽に奪われた二人の女性が出会い、加害者たちに復讐する。令和の『テルマ&ルイーズ』とも言うべき、バイオレントでコミカルなガールズ・ノワールだ。

 
 語り手のゆうは、かつて「たけもとらん」のペンネームで活躍した新進気鋭の漫画家だったが、ヒットメーカーとして名高い漫画原作者・磯神浩一が手掛ける新作の作画という大仕事を任され、一念発起して小さな一軒家を買った直後、地獄へと突き落とされる。磯神にホテルへと連れ込まれそうになって全力で逃げ出したら、磯神の機嫌を損ね、仕事を降ろされてしまったのである。しかも、大御所のご勘気をこうむった新人として編集部からも切り捨てられ、アマチュア時代からのキャリアすべてを失ってしまう。以来、侑李はPTSDを患い、一時は完全に筆を折ることに。いまはイラストレーターの仕事を請け負うかたわら、「ごまプリン」という新たなペンネームで、絵柄も変えて、漫画の仕事を細々と再開。愛猫「フィン」の遺骨とともに、荒れ果てた家で半分引きこもりのような生活を送っている。自炊する気力もなく、チキンラーメン(推定)を茹でずにそのまま貪り食うような日常。

 その侑李の家の隣には豪邸が建っている(というか、侑李が住んでいるのは、その豪邸のお手伝いさんのために建てられた離れだったらしい)。その豪邸の住人が、優雅そうな専業主婦・久我。完璧なメイクと非の打ち所のないファッションに身を包んでいるが、メイクの下にうっすらとアザが見える。

 置き配の荷物の受け渡しを通じて彼女と知り合った侑李は、花帆からオンラインショッピングで注文する荷物の配送先になってほしいと頼まれる。自分は夫の許可がなければなにひとつ家に持ち込めない。GPSでつねに監視されているのでコンビニ受け取りも不可能だが、侑李の家なら訪ねてきても誤差の範囲に見えるのだという。

 この頼みをうっかり聞き入れたことから、花帆はひんぱんに侑李の家を訪ねてくるようになり、正反対の二人の関係はじょじょに深まっていく。侑李が室内で紛失した封筒を探す手伝いを頼まれた花帆が仕事部屋を片付けはじめる場面をちょっと引用してみよう。

「片付けながら封筒探しましょう! どう見てもなゴミは捨てますね!」

 

 言いながら花帆さんは、私がゴミ箱までたどり着くのを諦めた結果適当に部屋の隅に積み上げたゴミを、嫌な顔せずにそのままガシガシ捨てまくっている。

 

 あざやかなその手つきも、背景の汚すぎる部屋も、やはり花帆さんの女子アナっぽいビジュアルと全く合ってなかった。ファッション誌で微笑んでいた女性の写真を切り抜いて、孤独死問題の本の上に載っけたみたいな光景だ。自分で思い浮かべておいてあまりにもしっくりきすぎて困惑するとともに、自分の状況を理解させられてしまう。私、孤独死に近い部屋で寝てるんだ……。そしてこんな汚い部屋に他人を入れるのは何かの罪に値するのでは? と思いながら、花帆さんがガンガン片付けていく速度になんとか追いつけるように自分も頑張って掃除を始める。

 最初は反発しか感じなかった花帆に対して、次第に心を開いていく侑李。しかし、やがてある事件を通じて、侑李は花帆が隠していたさらにおそろしい秘密を知ることになる。

 ガールズ・ノワールの傑作『ババヤガの夜』の王谷晶が本書の帯に寄せた推薦コメントにいわく、

「めちゃくちゃな世の中にボコボコにされている女たち、世界よりもっとはちゃめちゃになってやれ!! 今、元気のある人もない人も読んで笑って泣いてほしい。」

 実際、二人がついに復讐の牙を剝くシーンはすばらしく痛快だ。バイオレンスとドタバタとオフビートな笑いが渾然一体となった一大スペクタクル。

 決めゼリフはこれ。

「私と一緒に燃え尽きて、そんで一緒に暴れババアになりましょうよ」

 
 著者の有手窓は、金原ひとみが選考委員長をつとめた【文藝 × monogatary.com コラボ賞】に短編「白山通り炎上の件」を応募して、みごと大賞を受賞。受賞作は、YOASOBI「New me」として2024年11月に楽曲化され、同時に発売された受賞作アンソロジー『New me 文藝 × monogatary.com 小説集』に収録された。この短編は、会社勤めの女性がマッチングアプリで思わぬ相手と出会ってしまうという、これまた女性二人のノリノリのガールズ・アクション。ある意味、『お隣さんの置き配がヤバすぎる』の原型と言ってもいいかもしれない。河出書房新社とソニー・ミュージックエンタテインメントの異色タッグから見出されたこの新たな才能に拍手を贈りたい。

お隣さんの置き配がヤバすぎる
『お隣さんの置き配がヤバすぎる』

有手 窓
河出書房新社

評者=大森 望 

萩原ゆか「よう、サボロー」第154回
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