採れたて本!【歴史・時代小説#45】

採れたて本!【歴史・時代小説#45】

 江戸の文化、風俗に詳しい河治和香の新作は、日本近代の黎明期に活躍したが今では忘れ去られた感がある変な人(変方来)たち6人を描いた評伝集である。著書の小説『旅行屋さん 日本初の旅行会社・日本旅行と南新助』などの表紙イラストを担当したアニメ監督の杉井ギサブローが、表紙と挿絵を描いており、一コマ漫画風もある挿絵は読者の理解を助けてくれる。著者が第3回北海道ゆかりの本大賞、第25回中山義秀文学賞、第13回舟橋聖一文学賞を受賞した『がいなもん 松浦武四郎一代』の主人公・松浦武四郎への言及が本書の随所にあり、事前に読んでおくとより楽しめる。

「三浦乾也の巻」は、高名な陶工・尾形乾山の直系の弟子で六世乾山になったものの、しき縁の連続により幕末に洋船を建造する乾也を取り上げている。乾也と遠山左衛門尉、勝麟太郎(海舟)らとの思わぬ接点が指摘されるところは、まさに〝事実は小説より奇なり〟を地で行っていて興味が尽きない。意外な人と人との交流は、他の収録作でも描かれている。

「尾崎谷斎の巻」は、動物の角や牙で根付などを作る凄腕の彫師ながらほうかんで世を渡った谷斎を、息子の尾崎紅葉との関係を軸に描く。江戸で大店を営む伊勢商人の父と柳橋芸者の母を持ち、母から江戸っ子の英才教育を受け写真師として名を残した「北庭筑波の巻」の筑波や、機関車の製造を学ぶアメリカ留学中に野球に触れ日本人で初めてカーブを投げ、ローラースケートを紹介、車輌工場を経営する実業家にして三味線の名手で、ふくろもののコレクターでもあった「平岡吟舟の巻」の吟舟は、好きを突き詰めた人物といえる。

「高橋瑞の巻」は、日本の女性医師の草分け的な存在の瑞を主人公にしている。産婆(助産師)の免許を持っていたが、それよりも稼げ自立もできる医師を目指した瑞は、女武者のはんがくの異名を持つほどパワフルで、男尊女卑、ルッキズムなどの壁を次々と破壊していくだけに特に女性読者は痛快に思えるのではないか。本書の中で唯一、江戸っ子ではない瑞だが、貧しい人も診察する人情家で、後進の女性医師の育成にも熱心だったところは、江戸っ子的といえる。

 本書の中では最も有名と思われる「榊原鍵吉の巻」の鍵吉は、幕府が瓦解し剣が時代遅れになった後も剣術家としての矜恃を守ったが、生活苦にあえぐ門弟のため、剣術を見世物にするげっけん興行を開く柔軟性を見せているのが面白い。

 本書の主人公たちは変人扱いされているが、時代を切り開くには常識を外れる力がいると考え援助する人が必ずといっていいほど現れる展開を読むと、人と経済の成長を阻害する日本の同調圧力がいつ頃から生まれたのか、空気を読むことは必要なのかを考えずにはいられない。

 好きなことを仕事にし、一つを突き詰める人、多方面に手を出してすべて成功した人たちの記録は、従来のように生活や生き甲斐のために働くのではなく、推しのため、趣味のために稼ぎ、笑って生きるのも悪くないと気づかせてくれる。

ヘンポーライ往来 明治釈迦力列伝
『ヘンポーライ往来 明治釈迦力列伝
河治和香
エイチアンドアイ

評者=末國善己 

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