特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第1回]

特別対談 松浦弥太郎 × イモトアヤコ[第一回]

 世界の津々浦々を駆けめぐり、苛酷なロケに果敢に挑む姿が共感を呼んでいるイモトアヤコさん。彼女がいまいちばん会いたいという松浦弥太郎さんに人生のこと、仕事のこと、コミュニケーションのことを訊くスペシャル対談が始まります。


イモト
いやあ、ありがとうございます。自分の気持ちは意外とコロコロ変わるんです。最初、「こんなの絶対に無理」と思っていたことでも、とりあえず一歩でも踏み出してみると、「あれ?」ってなる瞬間がある。「もうちょっと行ってみようかなあ」って。

松浦
そうです、そうです。

イモト
それを繰り返しているだけなのかもしれません。

松浦
イモトさんの行動力、「すごいなあ」って思います。

旅をするのは何もないところ

イモト
松浦さんの『伝わるちから』には、わたしが大好きな言葉がたくさんあります。なかでも好きなのは、「寄り添うということ」という章と、それから「行きつけを作る」という章。旅先での朝食について記しておられて、自分が通える素敵な朝食屋さんがあると、旅に暮らしが加わる、というところがすごく好きです。わたしはロケに行くと、日程がぎゅうぎゅうに詰まっていて、なかなか余裕がないんです。でも、ちょっと意識するようになりました。

 毎朝、通える朝食屋が見つかると、旅に暮らしが加わる。旅に暮らしが加わると友だちができる。旅先で友情を得るということは、僕にとってとびきりのしあわせで、これほど嬉しいことはない。そうすると単なる旅が、すごく特別な旅になる。
 僕は、朝食屋の主人や店員の友だちが多い。あの街この街と。

(『伝わるちから』より)

 
松浦
旅先で、「おはよう」って挨拶できる店とか、自分の場所ができると、ちょっと良いですよね。

イモト
良いですね。同感です!

松浦
また明日もこの人たちに「おはよう」って言おうって思う。お店、宿泊先の従業員、どこでも誰でも良いんです。

イモト
そこで暮らしている人と何気なく交流しておられて、「ああ、『旅』をされているんだな」って。わたしが今までやってきたものは、移動するだけの「旅行」だったんだ、って。三十歳ぐらいの時に、ちょっと一人旅をやってみようかな、って思ったんです。ニューヨークに行くことにしました。「ブロードウェイとか見たら格好良いかな」なんて。事務所の社長がブロードウェイ大好きで、チケットを取ってくれたんですよ。そうしたら、分刻みのタイトスケジュール。全然「旅」じゃなかった。

松浦
はっはっは。

イモト
ホテルと劇場の往復。ふふふふ。でも、その後もひとりで金沢に行ってみたり、沖縄に久高島という素敵な島があるんですけど、そこへ行ってみたりとか。

松浦
ああ、本に書いていましたね。久高、良いですね。

イモト
素敵で、何もなくて、とっても良いんです。

あなたのパスタのレシピを考えている

松浦
そうなんだ。旅と言えば僕、じつは映画をつくったんですよ。

イモト
ええっ?

松浦
本当は二〇二一年の初めに公開するはずだったんですけどコロナ禍で延期になって、秋に公開を予定しています。ドキュメンタリー映画で、『場所はいつも旅先だった』という僕の本のタイトルを映画にも付けて。自分がよく知る街を、僕の視点でカメラを回して歩いてみたんです。

松浦さん

イモト
むっちゃ良いですね!

松浦
自分の書いた文章のナレーションが流れるんです。メルボルン、マルセイユ、台北、それからスリランカのほうとか。いわゆるお洒落な場所ではなくて、僕のなかでかつて訪れて、印象深かった場所に行っています。僕は、早朝と深夜が好きなんですよ。早朝だと朝の四時ぐらい。深夜だと夜中三時とか。

イモト
あははは、めっちゃ深夜!

松浦
朝の景色って綺麗じゃないですか。空がどんどん変わっていくし、人が働き始める。深夜は、「こんな時間でも働いている人がいる!」とか、「おうちの電気が点いていて、ご飯をつくっている!」とか。歩き回りながら、暮らしを見るのが好きなんです。「ああ、生きている。必死になって皆が生きている」って感じられる。それが僕の「旅のスタイル」なんです。映画でも、早朝と深夜だけカメラを回したんです。

イモト
観たい! めっちゃ観たい。とても好きです。

松浦
インドでは、電車で移動すると──。イモトさん、わかると思うんですけど、電車、キツいじゃないですか。

イモト
ヤバいですよインド。人、もう、溢れかえっています。

松浦
あと、揺れるんです。

イモト
ああ、揺れますよね。

松浦
でも皆、楽しく、トランプしながら、ゆったりしている。そういうのも好きなんです。観光地を巡るのも楽しいけれど、何もしないでそこにいるだけでも、「旅」になる。

イモト
人が面白いんですね。そこに住んでいる人たち。番組では、世界各地のロケに出掛け、現地コーディネーターたちと仲良しになっているんです。でも、今はコロナで会えません。一年以上会わないのって初めてです。再会したら、泣いちゃうだろうな。メールや「LINE」でやり取りしているんですけど、グルテンフリーを始めたわたしに、イタリアのコーディネーター・パオラから「LINE」が来て、「今、イモトさんのためにグルテンフリーで美味しく食べられるパスタのレシピを考えているんだよ」って言ってくれて。

松浦
へえ!

イモト
泣きそうになります。めっちゃ早く食べたいです。パオラのつくったグルテンフリーのパスタ。

松浦
やっぱり、「旅」は、誰かに会いに行くっていう目的が一番嬉しいですよね。

イモト
はい。

松浦
たったそれだけのために行く。距離は遠いけど。僕もいつもそう。人に会いに行く。

イモト
いろんな国、場所に、会いに行く人がいらっしゃるんですね。

松浦
そう。好きな人たちがいる。ちゃんと約束して行く場合もあるんですけど、ほとんど、アポなしで。

イモト
えっ? それがサンフランシスコだろうと、ぷらっと?

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