☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子 [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 3
角田
それまでは、凝った文章が書きたくて。一文を抜いたときに「これはこのひとの文章だね」って言われるような、それこそ本のここから(先ほどの西さんのジェスチャーを真似てから)ではなくて、行間からこうやって(両手で行間を左右に押し開くような手振り)……。
西
オギャーって(笑)。
角田
そういう文章が書きたかったんですよ。
西
開高健さん、好きですもんね。
角田
うん。ああいうね、ねっとりしたものを書きたくて、一文を書くことに心を砕いていた時期が10年ほどあったんですけど、……向いてなかった。
西
10年、やったけど(笑)。
角田
若くて、そういうことに憧れてたんだと思う。わたしはデビューしたころに、自分の文体をつくれってすごく言われて。「文体てなんですか?」と聞くと、「自分で考えろ」みたいな。わかんないんですよ、結局、文体ってなに?っていうのが。
西
うんうん。
角田
それをわたしは、凝った文章をつくれば、一行を書くのに半日費やせば、文体というものが〝できる〟と思っていたんだけれども、たぶん文体というものは、そういうものじゃないっていうのがあった。それと、半日すわって一行書いて、消して、また半日過ぎるみたいな芸術家的な生き方にただ憧れてるだけで、苦しかった、というのもあって、そして33歳のときに、いろいろなことが重なって、文体について、もう考えたくない! もう、じゃんじゃん書きたいと思って、変えたんです、書き方を。
西
へぇー。それで、変えれたの、すごいですね。
角田
あ、でも、まだ変えてる! 落として、落としてる。
西
え? いまだにじゃあ、ちょっとデコってると思う、というか、なんていうの……。
角田
そう。そうなんです。
西
角田さんが?
角田
そう、出ちゃうからね。消してる。そういうこと、ないですか?
西
うちはもう、こうやから(てのひらの向こうからグイっと顔をのぞかせ)。ぜんぜん削る努力はしないもん。ページめくる速度までもこうやって(目の前の本をめくる素振り)……。
角田
あはははは(笑)。
西
そっから最背面に行くの、めちゃくちゃ時間かかる! もう42やし、ちょっと無理ですね、わたしは。それやったら、芸術家みたいな書き方は難しいかもしれないけど、とにかく、それこそ一発でわたしの本てわかってもらっていいていうか……。
角田
うんうん。
西
だから、ぜんぜんちがう方向に、わたしと角田さんは全力で走りだしてると思う。
角田
そうかそうか。
西
それだけ、今回このお話をいただいて、うれしかったです。たとえば、水彩でも鉛筆でもいいし、色鉛筆もあるし、いろんなジャンルあるなかで、クレヨンで、ぐわーって描く人間に頼んでもらって、ほんまにうれしいなぁ。
角田
たしかに絵も、そう、西さんらしいわぁ。もうね、誰だろうって思わないもん(笑)。
西
しかも、わたし、めっちゃこわいですよ、自分の小説に自分の絵、使ってるんですよ。本を破って出てきてる! 「あたしやでぇー!」って(笑)。
角田光代(かくた・みつよ)
1967年生まれ。小説家。90年デビュー作『幸福な遊戯』(福武書店)で海燕新人文学賞受賞。99年『キッドナップ・ツアー』(理論社)で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2003年『空中庭園』(文藝春秋)で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』(文藝春秋)で直木賞、06年『ロック母』(講談社)で川端康成文学賞、07年『八日目の蟬』(中央公論新社)で中央公論文芸賞ほか受賞多数。大の向田邦子ファンとして知られる。
西加奈子(にし・かなこ)
1977年生まれ。小説家。イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪府育ち。2004年『あおい』(小学館)でデビュー。05年『さくら』(小学館)、06年『きいろいゾウ』(小学館)発表、ベストセラーに。15年『サラバ!』(小学館)で直木賞を受賞。18年『おまじない』(筑摩書房)発表。自著の装丁や個展開催など、独特の色彩、トリミングで描く絵にも評価が高い。
(取材協力 クレヨンハウス東京店 撮影 五十嵐美弥)