今月のイチオシ本【デビュー小説】

『鬼憑き十兵衛』
大塚已愛
新潮社 本体1500円+税

 一昨年、不死鳥のごとく甦った日本ファンタジーノベル大賞から、チャンバラ伝奇小説のすばらしい快作が登場した。その名は『鬼憑き十兵衛』。ファンタジーはちょっと……という人も、時代小説はあんまり……という人もどっぷりハマれる、壮絶な復讐劇にして、痛快無比のバディもの剣戟アクションである。

 時は寛永年間、三代将軍家光の時代。ところは肥後・熊本。細川家の剣術指南役をつとめる松山主水は、二階堂平法の遣い手にして秘術「心の一方」を極めた達人だが、1635年10月、寺で療養中のところを荘林十兵衛の一党に襲われ、暗殺される。

 ……と、ここまではおおむね史実(伝承)のとおりだが、その松山主水には、山人の子として密かに山で育てられた息子がいた──というのが本書の設定。実の父とは知らぬまま、剣の師である主水に徹底的に鍛えられ、二階堂平法のすべてを会得した少年──彼こそが、本書のヒーロー、"鬼憑き十兵衛"である。

 病床の主水に呼ばれて、「心の一方」を伝授され、実の親子であることを知らされたその夜、父は惨殺され、十兵衛は復讐を誓う。その復讐に手を貸す強力な相棒が、大悲と名乗る"鬼"。僧形ながら剃髪はしておらず、男でも思わず見惚れてしまうほどの超絶ハンサム。十兵衛が斬り殺した相手を片っ端から喰らっては、その人間の記憶を見て、松山主水暗殺の黒幕探しに協力する。

 この復讐譚だけでも充分以上に面白いが、中盤からは金髪碧眼の異国の美少女が登場し、物語がぐんぐん加速。さらに、黒幕の正体が明らかになると、物語は俄然、伝奇ファンタジーとして思いきりスケールアップし、すさまじいスペクタクルに雪崩れ込んでゆく。

 ちなみに著者は、本書と同じ時期に、『ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲』で第4回角川キャラクター小説大賞を受賞。こちらは19世紀末の英国を舞台にした絵画をめぐる冒険活劇で、角川文庫から4月下旬刊行予定とのこと。その筆力は、まさに即戦力。今年のエンタメ小説新人王の有力候補だ。

(文/大森 望)
〈「STORY BOX」2019年5月号掲載〉