【先取りベストセラーランキング】大変革のマンハッタンを生き抜いた89歳女性の回顧録 ブックレビューfromNY<第44回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの44回目。今回は、第二次世界大戦に米国が参戦する直前の1940年から、耐乏を強いられながらも大変革を遂げたマンハッタンを生き抜いた、ひとりの女性の人生の物語を紹介します。

<第44回>第二次世界大戦直前から戦中、戦後のマンハッタンを生き抜いた89歳女性の回顧録

City of Girls 書影1
City of Girls/by Elizabeth Gilbert
Riverhead, 2019.470ページ. US$28.00

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2019年7月7日の週)[1]を紹介する。

1.Summer of ‘69

By Elin Hilderbrand
Little, Brown

レヴァイン家の4人の子供たちは毎夏、ナンタケット島にある祖母の古い家で過ごす習慣だった。しかし1969年の夏、長女は双子を妊娠中でボストンから動くことができず、次女は市民権運動にのめりこみ、一人息子は陸軍歩兵としてベトナムに駐屯していたので、唯一13歳の末っ子のジェシーだけが、何やら秘密を抱えているらしい祖母と2人だけでこの家で過ごすことになった……。
(ベストセラー初登場)


2.Where the Crawdads Sing

By Delia Owens
Putnam

1969年、ノースカロライナ州の静かな町でチェース・アンドリュースの死体が発見された時、地元の人たちは、湿地帯で一人暮らしをし、「湿地帯の娘」と呼ばれていた若い女性を犯人だと思った。
(ベストセラー41週目)


3.City of Girls

By Elizabeth Gilbert
Riverhead

89歳のビビアン・モリスは、第二次世界大戦に米国が参戦する直前の1940年の夏、19歳の時にマンハッタンに出てきて以来の自分の人生をふりかえり、参戦直前の酒とセックスで爛熟したマンハッタン、耐乏を強いられた戦時中、そうして戦後大変革を遂げたマンハッタンで生き抜く中で、あるがままの自分でいることの自由を見出していったことを、その人生で唯一愛した男の娘に語り掛ける。
(ベストセラー3週目)


4.Unsolved

By James Patterson and David Ellis
Little, Brown

FBIアナリストのエミー・ドッカリ―は、一見何の関連もない事故死のように見える一連の出来事が、実は非常に頭の切れる犯人の連続殺人ではないかと疑った……。“Invisible”シリーズ2作目。
(ベストセラー3週目)


5.Mrs. Everything

By Jennifer Weiner
Atria

性格の異なる姉妹、ジョーとベシー・カーフマンが1950年代以降の世の中の変貌の中で、それぞれどのような人生を送ってきたかの物語。
(ベストセラー2週目)


6.Tom Clancy: Enemy Contact

By Mike Maden
Putnam

大学時代の友人の最後の願いがジャック・ライアン・Jrを南米のジャングルへと導いた。そこで死んだ友人の遺灰を撒くだけのはずが、思いもかけない攻撃を受けたジャックだった……。
(ベストセラー2週目)


7.The Oracle

By Clive Cussler and Robin Burcell
Putnam

夫婦のトレジャーハンター・チーム、サムとレミ・ファーゴは、5~6世紀に北アフリカに存在したバンダル王国の神聖な巻物探しを始めようとした時、レミがナイジェリアの学校の生徒たちとともに誘拐されてしまった……。“Fargo Adventure”シリーズ11作目。
(ベストセラー2週目)


8.On Earth We’re Briefly Gorgeous

By Ocean Vuong
Penguin Press

詩人Ocean Vuongの初めての小説。母一人、子一人で育ったLittle Dogというあだ名の息子が字の読めない母にあてた手紙で、家族の生い立ちについて述べる。多分に作者の自伝的な小説。
(ベストセラー3週目)


9.Queen Bee

By Dorothea Benton Frank
Morrow

過去に傷ついたホーリーはサリバン島に来て、養蜂を趣味として静かな生活を送っていた。しかしその生活も、ホーリーが「女王蜂」と呼んでいるうるさい母親や超社交的な妹、妻と死別し2人の男の子を抱える隣の男によってかき乱されていく。
(ベストセラー4週目)


10.Fleishman is in Trouble

By Taffy Brodesser-Akner
Random House

妻と別居し離婚係争中の41歳のニューヨークの病院勤務医のトビー・フライシュマンは2週間に一回、週末に子供の面倒を見る以外は、昼間は医者として働き、夜はいろいろの女性とのデートを楽しんでいた。しかしある日、別居中の妻が子供をトビーのところに置いて、姿を消してしまった。そして突然シングルファーザーとなったトビーの苦難が始まった……。
(ベストセラー初登場)


2位の“Where the Crawdads Sing” はベストセラー41週目に入り、相変わらず根強い人気だ。そのほかはすべて先月のリスト以降に出版された新しいフィクションばかりだ。

8位の“On Earth We’re Briefly Gorgeous” の作者は30歳のベトナム系アメリカ人で新進気鋭の詩人Ocean Vuong。彼の詩集 “Night Sky with Exit Wounds” はニューヨーク・タイムズの2016年トップ10ブックスに選ばれ、T.S.エリオット賞(2017年)、など各種の賞も獲得している。その詩人の初めての小説ということで、出版前から注目を集めていた。

いわゆる歴史小説のジャンルに入る3作品 “Summer of ‘69”、 “City of Girls” 、“Mrs. Everything” がランクインしている。それも20世紀の歴史を背景にした小説であることが目を引く。特に“City of Girls” と“Mrs. Everything”は目まぐるしく変革を遂げた第二次世界大戦後の米国の歴史の中で生き抜いてきた女性の物語で、近現代史の中をたくましく生きた女性の物語は、最近読者の注目度が高い気がする。5月に取り上げた”Lost Roses”もこのカテゴリーに入る。

今月は“City of Girls”を取り上げたいと思う。

[1]“A version of this list appears in the July 7, 2019 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending June 22, 2019. Lists are published early online.” (このベストセラー・リストは2019年7月7日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2019年6月22日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

今月のイチオシ本【デビュー小説】
出口治明の「死ぬまで勉強」 第17回 ゲスト:池谷裕二(脳研究者) 「ハマる角には福来たる!?」(後編)