作家を作った言葉〔第25回〕間宮改衣

作家を作った言葉〔第25回〕間宮改衣

 2023年7月から同年12月まで、映画美学校の言語表現コースことばの学校の基礎科を受講していました。ちょうどハヤカワSFコンテストの最終に残り、特別賞を受賞し、SFマガジンに作品が掲載されるまでの期間と重なっていて、主任講師の佐々木敦さんをはじめ、講師の方々のさまざまなことばに触れた経験は、小説家デビューを間近に控えた私にとってかけがえのないものとなりました。

 なかでも印象的だったのは、小説家の山下澄人さんの回です。前半は山下さんによる講義、後半は受講生からの質疑応答でしたが、その後半での山下さんの受け答えが、なんというか、答えるというよりも一緒に考えてくれるというか、一緒にことばを紡いでくれる、そんな空気感があって、オンライン開催で山下さんも佐々木さんも受講生もそれぞれのところにいる、けれど今この瞬間を全員同じ場所で共有しているという不思議な感覚がたしかにありました。山下さんのことばの力が、そう思わせてくださったのだと思います。

 そして事前に予習として読んでいた山下さん著の『おれに聞くの?  異端文学者による人生相談』も、私にとって大切な一冊となりました。ここに書かれたことばは、これから小説を書いていく中で何度も私を励ましてくれるものだと思います。私の中にも長い間「検閲」があったからです。「面白いものを書かなければいけない」「選ばれるものを書かなければいけない」「でも私には〝才能〟がないかもしれない」「〝才能〟のない自分が書いたって意味がないかもしれない」──。
 だけどそんなことは、本当は、本当にどうでもよくて。実際に、開き直って書き上げたのが『ここはすべての夜明けまえ』でした。もう、そんなのはいい、ただ自分が書きたいものを書こう、と。
 今後も自分の中にいる「検閲」に惑わされることがあるかもしれません。そのせいで筆が止まってしまうことも。でもそのときはこの本を開いて、何度でもこの言葉を読み返そうと思っています。山下さん、佐々木さん。素晴らしいことばの時間をありがとうございました。

Q──私は山下さんとあまり変わらない年齢で、最近になって小説を書き始めました(中略)誰にも読まれることのない小説を書き続けることも、それはそれで素敵かもしれないと思う一方で、やはり書くからには仕事として書かなければ意味がないと思うこともしばしばで(以下略)

 
「書くからには仕事として書かなければ意味がない」という考えは外から来ています。質問者さんの中に元々あったものじゃない。外から来た。そして居着いた。(中略)問題はその人間の、自分の中にいる「検閲」です。ほんとうにあれは無駄です。あいつはやる気を削ぐことしかしない。一見自分に厳しく良いことのように錯覚しますが錯覚です。(中略)やり方はどうでもいいのでとにかく跳ね返してください。跳ね返せなきゃ飲み込まれてしまいます。(中略)わたしは本を読むしかないと考えます。

(山下澄人『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』より引用)

 


間宮改衣(まみや・かい)
1992年大分県大分市生まれ。東京都在住。2023年、『ここはすべての夜明けまえ』で第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、同作でデビュー。


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