御木本あかり『終活シェアハウス』

御木本あかり『終活シェアハウス』

もしかして理想的シニアライフの発見かもしれない


 前作『やっかいな食卓』を上梓した時、「続きが気になる」というお声を随分といただきました。料理上手な凛子さんの家に、次男家族、長男の遺児、娘夫婦までズルズルと同居することになるお話ですが、当然、すったもんだが起こります。家長の凛子さん、嫁のユキさん、娘の涼さんの価値観・人生観の違いは大きく、男達は逃げ腰で。

 小説はそれなりにメデタシで終わりますが、人が触れ合う限りメデタシがずっと続くわけがない。登場人物の「今後」について、作者の責任を感じました。

 

 ただ、私が一番気になっていたのは、ユキさんの母親・恒子さんの「今後」でした。熱海のマンションで優雅な一人暮らしをしていた恒子さんですが、認知症の兆候が現れます。心配した娘は同居を提案しますが、恒子さんはかつての学友・四人でのシェアハウス生活を選ぶのです。「みんな、小学校からの長い付き合いなんだもの、大丈夫よ」と自信たっぷりに笑って。

 本当に大丈夫? 老いも病気も待っているし、女同士って結構いろいろ揉めるわよ。自分で作った人物ながら、心配でした。

 

 恒子さんは私と同世代です。よって恒子さん達が生きてきた時代背景は胸がツンとなるくらいよく分かる。「女の値打ちはクリスマスケーキ、24を過ぎると見向きもされなくなる」とまことしやかに言われていたあの時代。家庭科は女子だけが受けるもの、学業優秀でも社会に出た途端、お茶くみ担当です。男女雇用機会均等法なんてずっと先の話。女子大生ブームもJKブームもご縁がなく、結婚してもしなくてもすぐにオバサン呼ばわりされ、産休制度も保育園も不充実で夫達は超会社人間。せめてもと家庭を守ってきたら、世の中は一変し専業主婦は無能者扱いですよ。仕事を始めようにも、もはや雇ってもらえる年ではなく、ずっと家族と社会を支えてきたのに、年金は雀の涙。

 

 しみじみ貧乏くじ世代です。でも、この世代の女性達はその分、強く逞しいんですね。燃焼しそこなったエネルギーを、今こそ使わなくちゃと虎視眈々。今更恐れるものもなく、Z世代? デジタル社会? それがどうした、ってなもんです。私のことではないですよ、この世代女性の一般的傾向として。

 

 そんな女性達が一緒に暮らしたら……きっと姦しくて波乱も揉め事もあり過ぎだろうけれど、ちょっと楽しそう。ヨボヨボになり始めた夫がいたり、要介護の老親がいたりと、実現は難しいですが、物語ならいける。

 

 この、ある意味憧れのシニアライフを描いたのが『終活シェアハウス』です。案の定、登場人物達は勝手気ままの言いたい放題。揉め事ばかりの展開となりましたが、書き終えて「そうよ、老けてなんかいられんわい」と意を強くしている自分がいる。作者が登場人物に励まされて、どうする! でありますが。

 オバサマ達のパワーをお裾分けできたら幸いです。

 


御木本あかり(みきもと・あかり)
1953年千葉県出身。お茶の水女子大学理学部卒業後、NHK入局。夫の海外勤務で退職し、その後通算23年、外交官の妻として世界9カ国で生活。本名の神谷ちづ子名義でエッセイ『オバ道』『女性の見識』などの著書がある。2022年『やっかいな食卓』で小説家デビュー。本作『終活シェアハウス』が第二作。

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終活シェアハウス

『終活シェアハウス』
著/御木本あかり

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