田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第40回

「すべてのまちに本屋を」
本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ
茨城県を拠点に、ブックエースや川又書店などの複合型書店を関東に出店している株式会社ブックエースは、水戸市やつくば市の協力のもと、2015年から「自分の人生を変えてしまうような、素敵な1冊に出会ってほしい」という想いで夏休みに「小学生読書マラソン」を開催してきた。また、外商部と茨城県内の高等学校図書館のコラボ企画として、川又書店エクセル店の店内で「書店×学校図書館フェア」を開催したり、茨城県ビブリオバトル実行委員会の事務局を務め、全国大学ビブリオバトルの茨城県予選会サポートや、茨城決戦大会の運営を担うなど、積極的に読書推進の取組を実施してきた。
2025年度は、文化庁による「文字・活字文化資源活用推進事業」で支援を受け、水戸市を中心に茨城県全域で本に関わる人々を繋げるため、これまで以上に積極的に読書推進策を展開している。
2025年11月には、「いばらき読書フェスティバル」を開催し、地元の読者のほか、公共図書館や学校図書館、さらには書店や出版社も参加し、本に関わる多くの人たちが一丸となって地域の皆さんに向けて本と読書に触れ合う場づくりをしてきた。
事業の一環として、水戸市内の小学校での「出前授業『読書の時間』」が開催されている。出前授業に先立ち、2025年から編集作業を進めてきた副読本『読書の時間 みと・いばらき』が完成し、1月末までに水戸市内の小学5年生全員に配布された。
副読本『読書の時間 みと・いばらき』は、読書活動を推進するほか、未来の活字文化の担い手育成を目的に制作され、茨城にゆかりのある作家や出版社編集部の方々からの寄稿を通して、本が生まれる背景や、読書の多様な楽しみ方に触れられる内容となっている。
本副読本は、特定の授業展開や使用方法を想定したものではなく、各学校・学級の実態や指導計画に応じて、可能な範囲で柔軟に活用していただけるよう工夫されており、すべての内容を扱う必要はなく、一部のページのみの使用や、個人読書での活用が可能で、書店が「読む」「感じる」「考える」きっかけづくりを提供したいという強い想いが込められている。
子どもたちに配布して終わるのではなく、「朝読書・読書タイムでの活用」、「国語科・総合的な学習の時間での活用」、「読書活動の充実に向けた活用」、さらには「キャリア教育の視点での活用」など、副読本を活用した出前授業を実施し、継続して学校の現場で活用いただけるワークショップの事例なども提供している。
地域が一体となった副読本の制作は高い独自性があると考えている。学校図書館の蔵書を活用する出前授業は、書店と学校図書館が手を組んだ動きでもあり、業界においてもそれほど前例は多くない。副読本の展開にあわせて関連著者イベントなどを継続実施し、地域全体の読書に対する親近感と意識の向上を図っていければいいな、と思っている。
本件について、ブックエースの奥野康作社長と話す機会があった。「誰かに任せるのではなく、書店自らが主体的に動くべきである」という言葉が印象的だった。
「NPO法人読書の時間」の活動目的は、「出版業界全体のコミュニティの力で、子どもたちと本を、学校と社会を繋ぎ合わせること」である。それを実現するために、子どもたちに本と読書について考えるきっかけとしての「読書の時間」という授業が提供できないか、という着想を得て、これまで毎年全国各地で少しずつ出前授業「読書の時間」を開催しており、じわじわと連携いただける書店さんが増えてきた。
昨年からは、ブックエースと連携し、副読本『読書の時間 みと・いばらき』の制作と、水戸市内の小学校での出前授業の開催という二つを軸とした「読書の時間」事業を展開すべく準備を進めてきた。
出前授業は、寄稿いただいた編集者さんに担当いただくパートと、読書の時間のワークショップの2コマで構成されている。
「出前授業『読書の時間 みと・いばらき』」では、約1か月にわたり、以下のようなカリキュラムを用意し水戸市内の小学校に希望を募ったところ、多くのお申込みをいただいた。
■講談社/小説現代編集部による雑誌編集者の仕事と創作について
出版社の仕事内容や、雑誌編集の仕事、伴走してきた作家が、どのようにして物語を生み出してきたかをお伝えする、担い手育成寄りの講座
■小学館/出版局文芸編集室による翻訳作品の魅力
小学生に大人気のファンタジー『ダレン・シャン』等を世に送り出してきた小学館の編集者による翻訳作品の魅力と、翻訳作品を通じ世界を知ることの意味をお伝えする講座
■KADOKAWA/角川まんが学習シリーズ編集部による「学習まんが」の楽しみ方
多くの子どもたちに読まれているまんが学習シリーズを手掛ける編集部による、興味を広げ、古を知り、新しい世界を知るための学習まんがの楽しみ方をお伝えする講座
■小学館/コロコロコミック編集部によるまんがの世界
小学生向け月刊まんが雑誌の代表格であり、子どものサブカルチャー全般に強い影響力を持つコロコロコミックの世界をお伝えし、コミックの世界の楽しさを知っていただく。さらに、学校生活の日常を4コマまんがで表現するワークショップも実施することで、まんが家体験できる講座
■「NPO法人読書の時間」による本で広げる世界
2月現在は、水戸市内の小学校での出前授業月間の真っ最中である(本稿がUPされるころには終了しているが)。僕も、3校で「読書の時間」ワークショップを担当させていただき、200人を超える子どもたちと「読書」について共に考えることができた。学校、とくに学校図書館の皆さんにご協力いただいたことに感謝したい。
来年度以降は、自分たちでもこのワークショップを活用してもいいでしょうか、と言っていただけたことがうれしかった。
僕たち「NPO法人読書の時間」は、一人でも多くの〝未来の読者〟を創ることを目的として設立した団体である。出版業界全体のコミュニティと、書店と学校図書館、公共図書館という地域の読書の拠点が連携することで、それを実現していきたいと考え、地道に活動している。
今回、ブックエースとご一緒させていただき、書店自らが主体的に動くことで、これまでなかなか越えることができなかった壁を越える一歩になったと思っている。
田口幹人(たぐち・みきと)
1973年岩手県生まれ。盛岡市の「第一書店」勤務を経て、実家の「まりや書店」を継ぐ。同店を閉じた後、盛岡市の「さわや書店」に入社、同社フェザン店統括店長に。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに活動し話題となる。2019年に退社、合同会社 未来読書研究所の代表に。楽天ブックスネットワークの提供する少部数卸売サービス「Foyer」を手掛ける。著書に『まちの本屋』(ポプラ社)など。

![特別対談 田口幹人 × 白坂洋一[後編]](https://shosetsu-maru.com/wp-content/uploads/2022/10/honmado202211SP_t.png)
![特別対談 田口幹人 × 白坂洋一[前編]](https://shosetsu-maru.com/wp-content/uploads/2022/08/honmado202209SP_t.png)

