採れたて本!【海外ミステリ#39】

マリー・ティアニー『夜が少女を探偵にする』。まずはこの魅力的なタイトルを嚙み締めたい。原題が〝Deadly Animals〟なので翻訳の手柄といえるし、不気味かつ魅惑的な表紙と合わせ技一本という佇まいだ。〝あらゆるものが眠りの底に沈んだころ、エイヴァはときが来たことを悟った。〟という夜の気配に満ちた開幕の文章にも、期待を裏切られることはない。夜の気配を濃厚に描く文章のうまさは、ウイリアム・アイリッシュの『幻の女』をも思わせる。同書の最初の一文は〝夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。〟である。『幻の女』が若い男の夜ならば、こちらは少女探偵の夜である。
ある日、犯罪史と解剖学に造詣の深い十三歳のエイヴァは、夜に家を抜け出し、級友の少年ミッキーの遺体を発見してしまう。乱暴ないじめっ子で、エイヴァは彼のことを嫌っていたが、それでもそのままにはしておけない。声音を作って通報する。損傷の激しい死体だったが、ある大きな特徴があった。人間の咬み痕がついていたのである……。
エイヴァがそもそも夜に家を抜け出したのは、小動物の死骸置場に行くためだったという時点で思わず笑みがこぼれてしまう。とにかくこのエイヴァというキャラクターが良い。残酷な事件の展開も、自分の知識を生かした事件へのかかわり方も、全てが面白い。筆者が読んでいて想起したのはテレビドラマ「ウェンズデー」のウェンズデー・アダムスだった。海外ミステリーにおける少女探偵といえば、ナンシー・ドルーが思い浮かぶが、もう少女探偵はかわいいだけではいられないのである。不気味で理知的、かつ行動的。なんとも魅力的な少女探偵像だ。
やや苦味のあるホワイダニット──単純に「なぜ殺したか?」という動機の解明にとどまらず、犯人の背景にまで及ぶ解明──もまた、この少女探偵像と良い対照をなしている。六〇〇ページ弱の分厚さも一気読みだ。
本書はマリー・ティアニーのデビュー作である。2024年のヴァル・マクダーミド・デビュー賞(ヴァル・マクダーミドが創設した賞)を受賞のほか、翌年の英国推理作家協会(CWA)賞のゴールド・ダガー(最優秀長篇賞)候補とジョン・クリーシー・ダガー(最優秀新人賞)の最終候補にも選ばれるという華々しい注目ぶりで、2024年タイムズ誌年間最優秀ミステリーの栄光にも浴している。すぐにでも次の作品が読みたいと思わせる実力者である。
評者=阿津川辰海






