梅津かおり『バスカヴィル作家の最終便』

梅津かおり『バスカヴィル作家の最終便』

じつは壮大なラブストーリー


 本書は、米女優リース・ウィザースプーンのブッククラブで推薦され、ベストセラーとなった『ロング・プレイス、ロング・タイム』の著者ジリアン・マカリスターが2025年に発表した話題作だ。
『ロング・プレイス、ロング・タイム』はタイムリープを軸に、家族の謎を探っていくミステリ&SFだったが、本書にはいったいどんなストーリー展開が待ち受けているのか?
『ロング・プレイス~』にすっかりハマってしまったわたしはドキドキしながらページをめくっていくと……そこにはなんともドラマティックなラブストーリーが繰り広げられているのだった。

 といっても、甘ったるいロマンス小説ではない。著作権エージェントとして働くキャリアウーマンの妻キャムと、人質犯となった逃亡中の夫ルークの、胸をえぐるような切ない別離と再生の物語だ。また、人質交渉人のナイアルが元妻との関係を見つめなおすことで、自らの傷を癒やしていくサブストーリーにも胸が熱くなる。
 もちろん、そこにはミステリ&スリラーらしく、多くの謎がちりばめられている。なぜルークは人質をとって倉庫にたてこもったのか? どこに逃亡したのか? 7年後のいまも生きているのか? 徐々に謎が解き明かされていく過程は、さすが! のひと言に尽きるだろう。また、主人公キャムが愛書家を代表して本のもつ魅力を大いに語ってくれるが、それが唯一無二の味わいとなって読者を魅了する。

 ひとつの作品を訳すにあたり、わたしは著者の人となりや、どんなバックグラウンドがあるのかをできるだけ知るようにしている。ジリアン・マカリスターのSNSには、本の紹介に加え、息子や飼い犬の写真など、私生活の様子を垣間見ることのできるコンテンツも多い。『ロング・プレイス~』の執筆中にプロポーズされ、本作の途中で出産を経験したことは、作家としてのキャリアに大きな影響をあたえているのではないかと思う。つまり、彼女の紡ぐ物語の根底にはつねに家族に対する思いがあり、それが作品に反映されているのだ。だから、ミステリだろうとSFだろうと核にあるテーマは家族愛であり、彼女の書くものは家族小説以外のなにものでもない。日常生活で夫が人質犯になる確率はほぼゼロに等しいかもしれないが、どんなに現実からかけ離れた舞台設定であろうと、読者を共感の嵐に巻き込む理由はそこにある。そして読み終えたあと、わたしたちは自らに問いかけるのだ。自分にとって家族とはなんだろう、しあわせとはなんだろう、と。

 そんな愛のつまった本作品をどうか最後までおたのしみいただけたらと思う。

  


梅津かおり(うめづ・かおり)
山口県(周防大島)生まれ。翻訳者。早稲田大学卒業。訳書にM・P・ハディックス『シャドウ・チルドレン』シリーズ(小学館ジュニア文庫)、L・スコット&R・ウエストコット『わたしはスペクトラム』(小学館)、G・マカリスター『ロング・プレイス、ロング・タイム』、S・ヘプワース『グッド・シスター』(以上、小学館文庫)など。

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バスカヴィル作家の最終便

『バスカヴィル作家の最終便』
著/ジリアン・マカリスター 訳/梅津かおり

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