採れたて本!【ライトノベル#01】
『KADOKAWA のメディアミックス全史 サブカルチャーの創造と発展』は鎗田清太郎『角川源義の時代』、佐藤吉之輔『全てがここから始まる』に続く KADOKAWA グループ三冊目の社史だ。一九八二年から二〇一八年までの歩みが同社で社長、会長を務めた佐藤辰男によってまとめられている。角川春樹から歴彦への社長交代劇から電子化時代を迎え Amazon ら巨大海外資本との交渉まで、あるいは『ロードス島戦記』『新世紀エヴァンゲリオン』『涼宮ハルヒの憂鬱』といった大ヒット作の内側が、当事者から(時に失敗も含めて)語られる。関係者のみに配布された非売品にもかかわらずSNSで大いに話題となった。
中でも「角川の強みの第一」として「ライトノベルを創造」したことが上げられているように、ライトノベルについては重点的に、そして興味深い視点から取り上げられている。
佐藤はまず KADOKAWA における新旧のメディアミックスを対比させる。角川春樹の旧来のメディアミックスが、文庫を売るための映画化、という作品ありきのものだとすれば、角川歴彦によるそれは、最初に作品を生み出すプラットフォームを開発するものだという。
その一例が、しばしばライトノベルの起源のひとつと言われる、水野良『ロードス島戦記』だ。本作は著者が創刊したパソコン誌『コンプティーク』に連載されたテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(コンピュータRPGの元となったゲームで、複数のプレイヤーが司会役のもとで即興演劇のように遊ぶ)の紹介記事から生まれた。ゲームから小説へのメディアミックスだったわけだが、さらに著者は、本作をUGC(消費者生成コンテンツ)の先駆けとする。現在の動画配信サイトや小説投稿サイトと同様、TRPGはユーザーを作り手にし、メディアミックスの種を生み出すプラットフォームだったというわけだ。
そう整理することで本書は、『ロードス島戦記』から現在隆盛するウェブ小説まで、あるいは「ニコニコ動画」のドワンゴとの経営統合まで、ライトノベルや KADOKAWA の歴史に一本の流れを作り出す。ライトノベルとは何物で、それがいかに KADOKAWA とオタク文化を変えていったかについての当事者による記録として読むこともできるだろう。
もちろん、ライトノベル以外の点についても貴重な記述は多い。現在本書は、KADOKAWA の電子書籍サイト「BOOK☆WALKER」のサービス加入者に3月31日まで配信中。興味のある方は忘れずにご一読されたい。
『KADOKAWA のメディアミックス全史
サブカルチャーの創造と発展』
佐藤辰男
KADOKAWA
〈「STORY BOX」2022年2月号掲載〉