ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第94回

ハクマン第94回
世の中には
意味のない自己否定を
している人間が多い

今年もあと3ヶ月である。

毎年こう言ってため息をついている人間は時間が無限にあったとしても何も成し遂げないので安心してほしい。

そもそも何を成し遂げていようと時間は流れるのだ。
時間の流れを筋肉で止めることができるというなら、今年がすでに3ヶ月しか残ってない奴は筋トレ不足だったとして反省の余地がある。

だがきんにくんの今年だってあと3ヶ月のはずだ。
きんにくんの周囲ではまだ桜が咲いている、というなら私の認識不足で申し訳ないが、多分きんにくんの世界線でもそろそろタンクトップでは辛い季節になっていると思う。

つまり「今年もあと3ヶ月」というのは個人の努力では止めようのない自然現象であり、これに落ち込むのは「地球は丸いというのに俺ときたら」と言って落ち込んでいるのと同じだ。

逆に人間ごときの分際で、自分を大自然と同列に並べて落ち込めるというのはかなりの大物である。

しかし、世の中には「空は青いというのに俺のケツは汚い」など、意味のない自己否定をしている人間が割と多いような気がする。
どうせ意味がないなら否定より肯定した方がマシである。
よって「今年があと3ヶ月になるまで生き延びた自分」を褒め称え、二階級特進させたいと思う。

そもそも、根拠がなくて良いのが「自己肯定感」なのである。
最近、S(サド)学館連載の漫画資料のために「自己肯定感」について調べたのだが「自己肯定感」と「自信」は同じようで全く違うらしい。

まず「自己肯定感」に関しては様々な論者が定義をし、全員が一歩も引いていないせいなのか解釈が10個以上ある。
さすが自己肯定感について研究しているだけあって、皆己の意見を肯定する力が強い。

解釈は様々だが、要約するに自分で自分の存在を認めることであり、さらに存在していい理由や根拠もいらないのだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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